魚を捕まえたり、大きな岩から飛び込んだり。川では普段できない遊びがたくさんあって、子どもたちはとても楽しそうですよね。
見ているこちらはハラハラすることもありますが、自然の楽しさや危険を体で学ぶためには、川遊びはとても重要な自然学習の場となっています。
「危険だから子どもは川に近づいちゃダメ!」と言ってしまうと、子どもたちは川のことを何も知らないまま大人になってしまうかもしれません。
実際、2018年の河川の事故での死者・行方不明者では、197人中10人が子ども、高校生以上の大人は187人にのぼりました。
小さなお子さんがいるご家族も、今から川遊びを楽しむ大人の方も、今一度、川遊びの安全対策を再確認しませんか?
今回は、海やプールとは違う川の危険や、川遊びにおすすめの安全装備、それでもおぼれてしまったときの対処法などをご紹介します!
目次
川遊びでの事故の実態とは
「危険と隣り合わせ」といわれる川遊び。実際、何がどのくらい危険なのでしょうか。
まずは、2018年の河川の事故に関するデータを見てみましょう。
2018年の河川での事故データ
警察庁の調べでは、2018年の水難事故での死者・行方不明者は692人(子ども22人)、そのうち、河川での死者・行方不明者は197人(子ども10人)でした※1。
※1 「平成30年における水難の概況/警察庁生活安全局」
[出典]:「平成30年における水難の概況/警察庁生活安全局」
川遊びの事故、というと、小学生以下の子どもを心配しがちですが、実際には、死者・行方不明者のほとんどが大人だった、ということですね。
ただし、次のグラフを見ていただいてもわかるように、河川は、子どもたちにとって水の事故が起きやすい場所である、ということに変わりはありません。
[出典]:「平成30年における水難の概況/警察庁生活安全局」
では、どのような原因で事故にあうのでしょうか。主な原因※2を、年代別に見ていきましょう。
※2 「NO MORE 水難事故 2019(公財)河川財団 子どもの水辺サポートセンター P34~」
〈幼児〉
川岸からの転落、川の深みにはまっておぼれる、など
〈小学生〉
早い流れに流される、落としたボールなどを拾おうとしておぼれる、など
〈中学・高校生〉
増水時の川遊び、滝や堰堤(えんてい)からの飛び込み、など
〈大人〉
魚釣り、マリンスポーツなどのほか、作業中、通行中、など
また、大人の事故原因の中には「水難救助活動」も含まれています。
[出典]:「平成30年における水難の概況/警察庁生活安全局」
河川での事故を含む水難事故全体で、2018年には11人もの方が、おぼれている人を助けるために、死亡、または行方不明になっているのです。
考えても仕方のないことですが、誰もおぼれていなければ、今でも元気に暮らしていたはずの人が、2018年だけで11人もいるんですね。
水難救助活動による二次災害については、次の章で、もう少しご説明します。
助けにいった人が亡くなる水難事故の二次災害
(公財)河川財団の調べによると、2003~2017年の間に、おぼれた人を助けようとした人の約8割が死亡・行方不明・重体・重傷となっています※3。
※3「河川財団ニュース NO.52(平成30年7月発行)/(公財)河川財団」
あとの章でご説明しますが、おぼれている人を泳いで助けるのは、訓練を重ねた救助隊でも困難です。
でも、目の前で自分の家族や友人が流されたら、思わず飛び込んでしまう人もいるのではないでしょうか。また、そんな人を「危ないから行っちゃダメ!」と止めることができますか?
「幼いころ川でおぼれて、お父さんに何度も助けてもらった」という話を聞いたことがあります。実際、すぐに助けにいけば、助けられる命もあるのです。
飛び込むかどうかは、本当に、本当に難しい判断になります。「今なら助けられるのでは!?」「でも2人とも助からないかもしれない……」。行っても行かなくても、関わった人すべてにとってつらい記憶となってしまうかもしれません。
楽しいはずの川遊びで、そんな思いをしたくはないですよね。
川に入るときは、「おぼれたらどうするか」ではなく、「絶対におぼれない、おぼれさせない!」ことが大前提なのです。
おぼれる人は「静かに沈む」
「今日の川遊びは、大人がたくさんいるから安心!」。そう思う人がいるかもしれませんが、実は、大人が多いグループでの川遊びでも、水の事故はおきています。
(公財)河川財団の調べでは、2003~2017年の川の事故で、同行者やその場にいあわせた人によって救助行動がとられたのは、水の事故全体の4割程度※4でした。
※4「河川財団ニュース NO.52(平成30年7月発行)/(公財)河川財団」
約半数のグループで、「おぼれているのに気づかなかった」「気づいたが救助行動ができなかった」ということです。
「おぼれていることに気がつかないなんて……」と思われますか?
参考までに、次の動画でおぼれている子どもを探し、周りの反応を見てみてください(子どもは救出され無事退院しております※5)。
※5「専門救助研究室 Technical Rescue Rope & Water」
◆ 溺水事故 フィンランド
私たちは、「子どもがおぼれている動画」として見ているのですぐに気がつきますが、おそらく、中にいたら映像の大人たちと同様、気がつかないのではないでしょうか。
よく見ると、子どもはグルグル回転して遊んでいるようにも見えますよね。
映像からもわかるように、人は静かにおぼれ、1分ほどで致命的な状態となります。
大人であれ、子どもであれ、川では1人にしない、目を離さないことがとても重要なのです。
安全に川遊びを楽しむには
では、川遊びを安全に楽しむには、どうしたらよいのでしょうか。
ここでは、安全装備や川の危険についてご説明します。
ライフジャケットは標準装備!
「ライフジャケットは川のシートベルト」といわれています。浅い川では、つけるかどうか迷うかもしれませんが、足をすべらせて流された先に深みがあることも。
子どもの場合は特に、「川遊び=ライフジャケットを必ずつける!」ということを定着させておくといいですね。
ライフジャケットは、子ども用なら、頭からすっぽ抜けないように、股下にベルトを通すタイプを選びましょう。
ホームセンターやアウトドアショップなどで購入できますが、構造や強度が川遊びに向いていないものもあります。
ライフジャケットは命を守るための重要なアイテムなので、値段だけで選ばずに、一定の安全基準を満たしている製品を購入しましょう。
例)NPO法人川に学ぶ体験活動協議会「RAC川育ライフジャケット」の基準※6
1.流れの中で脱げにくい構造である
2.動きやすく、泳ぎやすい
3.呼吸確保しやすい浮遊姿勢となる
4.川の活動に必要十分な強度がある
※6「 河川財団ニュース NO.52(平成30年7月発行)/(公財)河川財団」
また、大人でもライフジャケットの着用は必要です。過去におきた水の事故での記録※7を見てみましょう。
※7「 NO MORE 水難事故 2019(公財)河川財団 子どもの水辺サポートセンター P34~」
事例1)2003年8月 高知県 四万十川
4人家族のうち、子ども2人が川遊びをしていて1人が流された。助けようとして親は流され死亡。子どもはライフジャケットを着用しており、近くにいた人に助けられた。親は未装着だった。
事例2)2007年8月 徳島県 吉野川
川下りのカヌーが転覆。乗っていた3人のうち、ライフジャケット着用の2人は岸まで泳ぎ無事。ライフジャケット未着用の1人が流され死亡。
ちょっと脅かすようですが、複雑な流れや急な深みのある河川では、やはり大人もライフジャケットが必要です。
大人の場合、簡単に頭から抜けてしまうことは少ないので、子どものように股下ベルトがないものも多く販売されています。
少し高額になりますが、マリンスポーツなどのお店では、スタイリッシュなライフジャケットも販売されているので、もこもこしたライフジャケットに抵抗のある方は、一度チェックしてみてくださいね。
あると安心!川遊び用の安全グッズ
〈photo by kii watanabe〉
川遊びでは、ゴロゴロと動く石の上を歩くため、ウォーターシューズがあると便利です。
苔の生えた石の上を歩くと滑りやすいので、靴底に滑り止め加工が施されているものを選ぶといいですね。
ビーチサンダルは、滑ったり脱げたりしやすく、かかとやつま先をケガする可能性も。川遊びには不向きなので、避けるようにしましょう。
ポリエステル素材のウォーターシューズなら、水の中でも重くならず柔軟性・速乾性もあり、脱ぎ履きをしやすいものが多くなっています。
ウェットスーツの素材(ネオプレーン)でできたウォーターシューズは、保温性があり、水に長く浸かっていても体温が奪われにくいので、おすすめですよ。
また、横に穴があいているタイプでは小さな石が入りやすく、子どもが途中で脱いでしまうかもしれません。脱いだ靴が流され、追っていくときに事故がおきやすいので注意が必要です。
ウォーターシューズのほかにも、転んだときのために、川遊び用の穴あきヘルメットがあると安心ですね。
外国製のヘルメットは、日本人の頭のかたちと合わないことがあるので、購入する際には、試着してみることをおすすめします。
一生懸命に装備をそろえても、子どもや同行者がライフジャケットを嫌がったり、危ない遊びをしたがったりと、安全対策に協力的でないことがあるかもしれません。
しかし、いったん水の事故が発生すると、家族や友人、救助隊など、周りの人の命も危険にさらすことになります。
「嫌がるからもういいか……」ではなく、「絶対、水難事故はおこさない!」という強い気持ちで安全対策を進めましょう!
川の流れの特徴を知って危険を回避!
川は場所によって流れの強さや向きが違います。水面からはわからない流れもあるので、あらかじめ、危険な場所を頭に入れておきましょう。
【くねくね蛇行の外側は危険!】
川にはくねくねと蛇行している部分がありますよね。川が曲がるとき、その外側の流れは早く、内側は遅くなっています。
また、まっすぐな部分では、水面側が早く、川底側が遅い傾向にあります。
つまり、川岸近くや川底では摩擦によって水の流れが遅くなり、川の真ん中あたりの水面近くでは流れがもっとも速くなっているということですね。
ただし、大雨などで増水したあと、川のかたちが複雑に変わることもあるので、「ここだから絶対安心」という場所はないと考えておきましょう。
【ぐるぐる堰堤(えんてい)は危険!】
堰堤とは、砂防や貯水のために作られた小型のダムのこと。
小さな滝のように見える堰堤もあり、そこから飛び込んで遊ぶ子どもが多いようですが、堰堤の下ではドラム式洗濯機のような、たてにぐるぐるまわる流れが発生しています。
これに捕らわれると自力で浮き上がることは難しく、水難事故の多い場所のひとつとされています。
【石に足がはさまると危険!】
大人のひざ上程度の深さでも、流れの強い場所で、川底の石の隙間に足がはさまって動けなくなると、とても危険です。
足がはさまれたまま転倒してしまうと、後ろから流れてくる川の水圧で、水上に顔を上げることができなくなってしまいます。これを「フットエントラップメント」といいます。
足がはさまれたらムリに動かず、すぐに大声で助けを呼び、絶対に転倒しないように注意しましょう。
【岩のうしろは意外と危険!】
川に点在しているちょっと大きめの岩。その後ろは、川の流れを回避できて安全に見えますよね。
確かに、流れがゆるやかになっていることもありますが、実際には、川の流れに対する反転流「エディ」が起きていたり、岩の両側には「エディライン」という下向きの流れが発生していることもあります。
岩の後ろは安全だと思い込み、むやみに入り込まないようにしましょう。
☆☆☆ONE POINT☆☆☆ フットエントラップメントのような危険を回避でき、川遊びとしても楽しい「浮いて流れる方法」をご紹介します!その名は「ホワイトウォーターフローティングポジション」。ちょっと長いですね。名前を覚える必要はないと思います。 ライフジャケットを着けて下流方向を向き、足を水面まで持ちあげて、座ったような姿勢で浮き、両手でバランスを取りながら、ふよふよと流れていくような感じです。 上手にできるようになれば、かなり楽しいアクティビティとなるうえ、実際に流されてしまった場合にもこの姿勢をとれば、おちついて状況把握ができますよ!
もし、救助が必要になったら
川遊びの安全装備もつけたし、川の危険な場所もしっかり頭に入ってる!
それでも、思いがけない水の事故がおこってしまったら、まず、どうすればいいのでしょうか?
大声で助けを呼び、すぐに119番通報!
誰かがおぼれているのを見つけたら、まずは大声で助けを呼び、119番通報をします※8。
※8 「目の前で溺れている人がいたら あなたはどうしますか?/水俣芦北広域行政事務組合消防本部」
2018年の救急車の平均到着時間は8.6分※9。119番通報をすれば、そこから救助隊、救急隊の出動準備がスタートするので、できるだけ早い段階で通報しましょう。
※9 「平成30年版 消防白書」
通報したときに、事故の状況に応じて、陸からの救助のしかたなどの指示があるかもしれません。
救助隊が来るまでのあいだ、指示の通りに救助を試み、励ましながら、おぼれている人から目を離さないようにしましょう。
水に入らず陸から救助
日本赤十字社による「水上安全法救助員Ⅰ」の実技講習では、おぼれている人の「助け方」よりも先に、おぼれている人から「自分を守る方法」を学びます。
おぼれている人が女性や子どもであっても、通常では考えられない力でしがみつかれ、助けにいった人が命を落とすケースもあるのです。
訓練を受けていない人が水に入ってしまうと、要救助者が増えてしまい、救助隊の救助活動が難航することも考えらます。
助けにいきたい気持ちをぐっと抑えて、陸からの救助や声かけに集中し、救助隊の到着を待ちましょう。
☆ONE POINT☆ おぼれている人を陸から助ける方法には次のようなものがあります。 ・長い棒などを差し出してつかませ、引き寄せる ・ペットボトルやクーラーボックスなど浮くものを投げる (ペットボトルには少し水を入れると投げやすい) ・ロープなどを投げる (届かなかったらすぐに引き寄せて何度でも投げる) ただし、おぼれている人は目をつぶっていることが多く、川の音で耳もよく聞こえていないかもしれません。状況をよく確認して投げるようにしましょう。
自分が流されてしまったら
自分が流されてしまった場合、ムリにもとの場所に戻ろうとしないことが大切です。
流れのある川では、「浮いて待て※10」の方法は向いていないので、先述したホワイトウォーターフローティングポジションで浮きながら、大声や、手を振るなどして助けを求めましょう。
※10:服を着たまま海に転落するなどした際、仰向けで両手足を大の字に広げ、呼吸を確保して救助を待つ自己救命策
助けを呼べない場合は、ホワイトウォーターフローティングポジションのまま、複雑な流れのある場所をさけ、流れが緩やかな場所まで流されます。
浅い場所にたどりついても、フットエントラップメントを避けるため、立ち上がらず、浮いたままで岸へ向かいましょう。
ライフジャケットを着ていれば、そう簡単には沈みません。落ち着いて状況を把握し、避難できる場所をめざしましょう。
安全な川遊びグッズをご紹介
ここでは、川遊びに必要な装備や、あると便利な川遊びグッズなどをご紹介します!
まとめ
いかがでしたか?
いろいろとコワいお話がありましたね。でも、これらを知らずに川へ入るほうが、もっとコワいと思いませんか?
川は、季節や天気などによって、常に姿を変えています。
そのため、「川は生きもの」いわれますが、もちろん生きてはいないし、「人を沈めてやろう」という意思もありません。
川での事故をなくすことができるのは、私たち人間です。
川の危険な場所を知る、大雨など注意するべき天気の条件を知る、沈まない、流されないための装備をつける。できることはたくさんありますね。
しっかり安全対策をして、これから先も川遊びを目いっぱい楽しみましょう!
[出典]
・「平成30年における水難の概況/警察庁生活安全局」
・「<キャンプのプロ監修>川遊び完全マニュアル。遊び方から服装・持ち物、おすすめキャンプ場まで」
・「河川財団ニュース NO.52(平成30年7月発行)/(公財)河川財団」
・「 NO MORE 水難事故 2019(公財)河川財団 子どもの水辺サポートセンター P34~」
・「もしものときは「浮いて待て!」/第八管区海上保安本部」
・「通信指令員の救急に係る教育テキスト」
・『スイフトウォーターレスキュー 基本テクニック』(竪村浩一/イカロス出版)
・『りすの四季だより』(あんどうりす/株式会社新建新聞社)
・『赤十字水上安全法講習(11版)』(日本赤十字/株式会社日赤サービス)
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