介護の仕事は未経験ですが、介護福祉士実務者研修(以下、実務者研修)を受講してきました。
実務者研修は、以前の「ホームヘルパー1級」に相当する資格です。
合格すれば、「訪問介護事業所でサービス責任者になれる」「介護福祉士国家試験の受験資格の一部を満たす」くらいの研修なので、未経験者にとっては、なかなかハードな内容です。
ここでは、私がなぜ、そんな無謀なことをしたのか、そして、そこでどのような体験をしたのか、などをお伝えしたいと思います!
目次
未経験者から見た実務者研修
以前、ライターとして勤めていた介護職関連の会社で、介護の資格である「実務者研修」を受けさせてもらえる機会がありました。
実務者研修は、無資格で受講すると、10~20万円ほどの費用がかかるので、それを会社が負担してくれるというのは、めちゃくちゃラッキーなのでは……?
介護士さん向けの記事を書いていた私は、「介護士さんはどんな勉強をして、どんな仕事をしているんだろう?」とわくわくしながら、気軽に申し込んでしまったのでした。
ともに学ぶメンバーの顔ぶれは?
私が申し込んだコースのメンバーは7名。私以外の6名は、全員、介護士さんでした。
……まぁ、そうですよね。
そんな研修に、介護どころか、高齢者と接する機会もほとんどない私がまぎれこんでしまい、みなさんの足を引っぱることになるのでは、と心配しましたが、同じクラスの介護士さんは、みんな明るく親切で、あれこれ助けられながら、ついていくことができました。
ココだけの話ですが、メンバーによって、講義の雰囲気はかなり違うみたいですよ。
欠席した講義の振替で、一度だけ別クラスへ行った介護士さんが、「あのクラス、介護士どうしでお互いの意見を攻撃しあって、コワかった……」とぼやいていました(笑)
「学問の介護」と「実際の介護」
何も知らずにとびこんだ実務者研修ですが、逆に、それがよかった、と思うこともありました。
同じクラスの介護士さんたちは、無資格・未経験で介護職についた人ばかり。
「見よう見まね」で進めていた介護業務もあったようで、それらを修正するのが大変そうでした。
特に、車いすの扱いでは「クセ」がついてしまっていて、「止めたらすぐブレーキ!」「方向転換で後輪を持ちあげない!」など、何度も同じ注意を受けていました。
車いすの方向転回で、何度も切り返し、苦戦している介護士さんを見て感じたことは、「これ、介護現場では、この先もたぶんやらないんじゃないかなぁ……」ということ。
講師もおっしゃってましたが、どうやら「学問の介護」と「実際の介護」とは、わけて考える必要がありそうです。
例えば、「学問の介護」では、施設の利用者さんに、「~してね」など、命令してはいけないそうです。「~しますね」というのも、丁寧な命令になるとのこと。
「~してもいいですか?」「~はいかがですか?」と確認して、了解を得てから行動するのが基本だそうですよ。
介護士さんたちは、「認知症などで、うつむいたまましゃべってくれないおばあちゃんもいっぱいいるのに……」と、苦笑いでした。
心に残った講師のことば
私が受講したコースの担当講師は、たとえ話などで、とても分かりやすく授業を進めてくれる方でした。
その中で、一番心に残ったのは、「みなさんが16歳のとき、どんなふうに過ごしていましたか?」というお話。
16歳というと、高校に入学して、新しい友達もできて、クラブに入って……。
「今(2019年当時)、80歳の人は、16歳の時に終戦を迎えました。」
16歳で、終戦――。
「『こんなことなら、あの時、死んでいればよかった……!』なんて、絶対に思わせたらダメだからね。」
長生きできてよかった、あの時代を乗り越えて本当によかった。
そんなふうに思ってもらえる介護ができたら。
思わず介護職に転職してしまいそうになるほど、心に残ることばでした。
実務者研修のおおまかな内容
介護に必要な知識や技術の習得が目的の「介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)」に対し、実務者研修では、質の高い知識や技術を習得し、幅広い介護サービスを提供できるようになることを目的としています。
早い話が、実務者研修は、初歩的な介護技術を教わる場ではない、ということですね。
車いすの押し方も知らない私は、ついていけるのでしょうか?
まずは通信課題からスタート
実務者研修を申し込むと、すぐに、受講の手引き、教材(テキスト9冊、通信課題)、支払いの振込み用紙、などが送られてきます。
支払いを済ませたら、ざっと受講の手引きに目を通して、スケジュールを確認。
スクーリング初日の提出にむけて、自宅学習の通信課題をスタートします。
マークシート式で、テキストを見ながら回答できるので、ここは未経験者でも問題なし。
100点満点中70点以上で合格ですが、70点以下でも、期間内に再提出して合格すれば大丈夫です!
☆ ONE POINT ☆
通信課題は穴埋め式なので、問題に関係ないところはすっとばして進めがちですが、講師によっては、ちゃんと読んでるか、抜き打ちで質問されることも。教材の内容は、為になることばかりなので、課題の提出後でも時間を見つけて、一通り目を通すことをおすすめします!
介護計画書の作成
私が受けたコースのスクーリングは、全部で6日間。1~2日目の講義では、介護計画書の作成を学びました。
利用者さんの体の状態、既往歴、家族の事情などを考慮しながら、受講生がチームに分かれて、介護計画書を作成します。
さらに、チーム同士で発表し合い、「どうしてその計画案になったのですか?」など、質問を受けたりするので、このあたりから、未経験者はちょっとドキドキしはじめます(笑)
でも、基本的に、介護は生活の延長上にあるものなので、「もし、自分のおばあちゃんだったら……」などと想像することで、議論についていくことができました。
また、この講義で厳しく指摘されたことは、「根拠」です。「どうしてこの介護計画になったのか」という理由を、徹底的に追求されます。
介護は、ケアマネージャーや介護士、医師、看護師などがチームで動くことが多いので、なぜこういう介護をするのかを、全員が理解する必要があるからだそうです。
同じ理由で、「できる範囲で……」などというあいまいな表現も指摘されます。
その「範囲」は誰が判断するのか、決定する人を決めておかないと、その計画書を見た人がバラバラの判断をしてしまうことになります。
この2日間で、「介護の現場では根拠のある介護を提案すること」「絶対に間違いがおきないような介護計画書を作成すること」、などを学びました。
車いすの移動・移乗実習
スクーリングの3~4日目は、車いすでの移動・移乗の実習です。
1~2日目に作成した介護計画書をもとに、どこが不自由なのか、どんなメンタルなのかなどを考慮しながら、ベッドから車いすへの移乗などをおこないます。
ちょっと演技が入るので、はじめは気恥ずかしい感じもしますが、そんなことも言ってられません。
右腕がマヒしている場合はどちら側から介護する?どう動かしたらどんな危険がある?どんなふうに声をかける?
講師は、手取り足取り教えてくれないので、受講生どうしで、意見を出し合いながら、汗だくになって実習を繰り返しました。
次回は、実技テストです!
実務者研修の実技試験
4回のスクーリングを経て、5回目はいよいよ実技試験です。
午前中は、全員で学んで来たことを総復習。
実技試験で重要と言われる「安全・安心・安楽」「尊厳の保持」「自立支援」を踏まえているか、などに注意しながら、何度も動作を確認しました。
実技試験の流れ
試験は、いつもの教室でおこなわれました。
教室の一番前の机には、講師が採点シートらしきものとストップウォッチを準備して座っています。
実技は教室の真ん中でおこなわれるので、そこにイス、車いす、障害物となる段差などが用意されています。
受講生は、教室の一番後ろで、横一列にイスを並べて座りますが、他の人の実技試験を見ることはできないので、全員、後ろ向きに座ります。
試験が始まると、まず、介護する高齢者の情報が書かれた用紙が全員に配られます。
5分ほどでその情報を頭に入れ、どのような手順、声かけで介護を進めるかを組み立てます。
高齢者の情報は、ま新しいものではなく、午前中まで練習していたものとほぼ同じでした。
たったひとつ違ったことは、高齢者役の人は「はい、いいえ」としか言えないことです。
練習では、高齢者の足にしびれがあることを、
「痛いところはないですか?」
「足にしびれが……」
と、高齢者役の人に、言葉で伝えてもらい、
「それでは、車いすでお送りしましょうか」
という流れにしていました。
試験中「はい、いいえ」しか言えない高齢者役の人から、どうやって足にしびれがあることを聞き出せばよいのでしょうか。
迷っている時間はありません。
「では、1番の人、前へ。」
1番は、なんと、私でした。
受講の申し込みが一番早かったので、出席番号が1番だったんですね。
「6人の介護士さんの前で介護の実技試験を受けるライター」という、シュールな状況で、実技試験がはじまりました。
思いがけず役にたったライター魂
「1番、わたなべきい、はじめます。」
その宣言で、ストップウォッチは動き出します。制限時間は5分です。
問題の箇所は、わりと序盤にありました。
私が出した答えは……。
「リハビリ後から、左足がしびれていると報告を受けていますが、まだ、しびれはありますか?」
他のスタッフから聞いた、というシナリオに書き替えました。
高齢者役の人が、「はい」とうなずいてくれたので、その後は練習通りに車いすへの移乗へと進み、なんとか時間内に「終わります!」と宣言することができました。
しびれの部分は、全員が迷っていたらしく、2番目以降も、全員まさかの同じ文言(笑)
試験後、介護士さんたちに感謝されるという、不思議な展開となりました。
試験結果は、全員の実技が終わったあと、1人ずつ廊下に呼ばれて合否が伝えられます。
やはり、私が一番に呼ばれ、緊張しましたが、結果は合格!
他のメンバーも、時間内に終われなかった2人が、いったん不合格になったものの、直後の再試験で、2人とも合格!
7人そろって、笑顔で終了することができました。
医療的ケアは「仮免許」
スクーリング6日目。最終日は看護師の資格を持つ講師に代わり、「医療的ケア」の演習です。
【医療的ケア 演習項目】
1.胃ろう経管栄養
2.経鼻経管栄養
3.手袋着脱法
4.口腔内吸引
5.鼻腔内吸引
6.滅菌手袋装着法
7.気管カニューレ内部吸引
8.救急蘇生法
医療的ケアの演習では、講師のあとに続いて、何度も手順をこなすという演習が繰り返されました。
とてもやさしい講師でしたが、唯一、厳しく言われたのは、「不潔」「清潔」を完全にわけることでした。
「清潔」であるべきものが、一瞬でも「不潔」に触れると、それはもう「不潔」です。
医療器具なら、もうそのまま使えません。
ドラマなどの手術シーンで、執刀医が両手を顔の横に上げているのは、胸から上が「清潔ゾーン」だからだそうですよ。
「清潔」の手袋をはめたあとは、胸より下に、手は下ろしません。
パフォーマンスではなく、ちゃんと意味があるんですね。医療では、清潔・不潔の区別が、とても大切なのです!
最後は、救急救命講習などで使われる人形で、胸骨圧迫を体験して終了です。
医療的ケアは、これで何かができるようになるわけではなく、「仮免許」のようなもの。
介護現場で、医療的ケアを提供したい人は、ここからさらに「喀痰吸引等研修(演習3日間・実施研修)」を受講し、はじめて喀痰吸引などの行為ができるようになります。
私はもう、そこまではしないので、私の実務者研修は、これにて終了です!
めーっちゃくちゃ、よい勉強になりました!!
まとめ
いかがでしたか?
今回は、無資格・未経験で実務者研修に挑戦した感想などをお伝えしました。
冒頭でお伝えしたとおり、実務者研修の費用は、決して安くはありません。
実務者研修を無料で受ける方法としては、「資格取得を支援してくれる介護施設などに就職すること」が一番簡単です。
介護職は、無資格未経験でも就職することがきるので、介護職への就職をお考えの方は、資格取得支援のある施設を選び、無料で、しかもお給料をもらいながら、かしこく実務者研修の資格を取得しちゃいましょう!
【出典】
◆資格介護福祉士実務者研修の費用・価格を学校別で徹底比較!/介護の資格最短net
◆初任者研修と実務者研修 どちらを選べばいいの?/ケア資格ナビ
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