ここは、架空老舗書店の晴天書房。私はお店番のあんずです。
皆さんは幼い頃の思い出はありますか?
無知で純粋だったあの頃を思い出してしまうような4作品をご紹介しましょう。
お店の常連さんに、おすすめの本を聞きました。
晴天書房の常連たち
おばさんながら「少女もの」ずき マロン 赤毛のアンにあしながおじさん、秘密の花園。少女が主人公の物語って昔から惹かれるものが多いかも。
少女は無防備で無知! YUMMY 子どもの頃を思い出すと、父が甘やかすものだから自分が世界の中心だと思って育ってしまった!アホやな。
江國作品はここから ぐっち 『すいかの匂い』を読むと、孤独を悟られまいと強気にすまし、図書室で過ごしていた少女時代を思い出す…。
ほっこり系が好き ひかりん 正反対の2人が出会うなんて、よくある設定かもしれないけど、若者が頑張る物語ってついつい読んでしまう。
大人になり切れず現実から
取り残された少女の哀しさ
【あらすじ】 少女のもとに義父の連れ子として現れた、年の離れた姉。彼女は秘密めいた裁縫箱を抱え、「誘拐されていた」時の冒険譚を少女に語る(『誘拐の女王』)。かつてこの世にあった人や事からインスパイアを受け、独特の語り口で現実と虚構のあわいを描く全10篇。
プレゼンテーター:
おばさんながら「少女もの」ずき マロン
小川洋子さんの作品の主人公はたいてい、一見おとなしくまじめで何の害も及ぼさない人でありながら、実はどこかあやうい、正気と狂気のはざまを漂っているような人。その象徴として頻繁に現れるのが、空想の世界を生きている「少女」です。短編集『不時着する流星たち』の第一話『誘拐の女王』も、そんな「少女たち」のお話。
母親の再婚によって姉になった女性を、家の向かいにある謎めいた小屋からやってきたと思い込む少女。自分は誘拐されていたのだと妹に囁き、壮大な冒険譚を語る姉。姉は年齢の上ではすでに大人ですが、空想の世界から抜け出せずぽつんと取り残されてしまった「少女」でもあります。そのもろさや哀しみをそっとすくい取ったような物語にキュッと胸をつかまれます。
不可思議であり得ない話を信じたり、ごっこ遊びで空想の人物になったり、昔「少女」だった人ならどこか懐かしさも覚えるお話です。

美少女に降りかかる苦難、
その果てに見えるものは?
【あらすじ】 大事故が相次ぎ「魔の土曜日」と言われたその夜、12歳の黒沢百合子の両親が何者かに殺害される。豪邸で何不自由なく育った少女は、母の美貌を受け継ぎ将来はピアニストとしての人生を約束されていた。しかし、事件は彼女に重くのしかかり、歪んだ悪夢が百合子を巻き込んでいく。
プレゼンテーター:
少女は無防備で無知! YUMMY
小池 真理子の最新作は、苦難に見舞われながらも、一人の美少女が大人の女としての成長する姿を描いていて、長編であることを忘れるほど一気に読ませる女の一生譚である。
衝撃的なタイトルは、バッハのマタイ受難曲の歌詞「神よ憐みたまえ」から。母方の叔父、佐千夫が百合子に心を奪われることで、人生の滑車を狂わせていく様は切ない。百合子が美しく無垢なだけではなく、意地悪な小娘に描かれているところが小池さんの真骨頂であろう。
小学生なのに胸の発達が早く、大人びた少女は自分の秘められた力を知っていて、この叔父を翻弄する。悪意がなくても、それでも大罪であるゆえ、受難を引き寄せる百合子が強く生きる姿は感動を覚える。
私の少女時代を振り返ると、父をはじめとする異性が自分の意のままになることを幼いながらに知っていた!?気がして、ただただ無知で無防備だったことが恥ずかしくなる。

ある夏、少女たちが体験した
大人の世界のビターな洗礼
【あらすじ】 あの夏の記憶だけ、いつまでもおなじあかるさでそこにある。つい今しがたのことみたいにー。無防備に出あってしまい、心に織りこまれてしまった事ども。困惑と痛みと自身の邪気を知り、私ひとりで、これは秘密、と思い決めた。11人の少女の、夏の記憶の物語。
プレゼンテーター:
江國作品はここから ぐっち
本作に登場するのは、自身をとりまく世界から疎外感を感じている孤独な少女たちだ。彼女たちはある夏、その孤独な魂と共鳴する他人(大人)と出会い、束の間の交流を持つ。彼らから放たれる「秘密」の匂いに、”この人ならわかってくれる”という淡い期待を抱きながら。しかし、その期待とはうらはらに、手痛いしっぺ返しをくらう。深い闇を抱える大人たちの決然とした態度に、自身の幼さをあぶりだされて。
ずっと昔に読んだはずなのに、蕗子さんもあげは蝶の女も、イメージが鮮明だった。彼女たちをはじめ、大人たちの垣間見せる世界はとてもビターだ。彼らはどこか諦めと強さをもって、影の濃い人生を歩んでいく。彼らとの交わりで、ほんの一瞬生まれる共犯関係。それが裏切られる刹那に広がる甘い痛みは、少女たちに「もう子どもではない」ことを教えるのだった。
夏の陽射しのもとで際立つ生と死の輪郭。その怖くも懐かしい手ざわりを思い出すような一冊だ。

少女は覚えていないだろう
あの夏の日々を
【あらすじ】金髪少年、大田はある日先輩からアルバイトの話を持ち掛けられる。それは1ヶ月ほど1歳の娘、鈴香の子守をしてほしいというものだった。初めは泣かれてばかりで振り回されていたが、次第に心を通わせていくーひと夏の奮闘記。
プレゼンテーター:
ほっこり系が好き ひかりん
前作の『あと少し、もう少し』で登場する大田を主人公にしたスピンオフ作品。
不良少年が子守!?とハラハラしたけれど、大田は根気強く鈴香と向き合い続け、彼女もまたそれに応えるようになるのを読みながら「子どもは無意識に人の本質を感じ取っているのかなぁ」と思わされます。
「あと少し、もう少し。ここにいられるなら、どんなにいいだろう。でも、引き延ばしちゃいけない。終わりを告げた時間にとどまっていてはだめだ。」の一節に共感。人って自分が輝いている瞬間にずっととどまっていたいですよね。私も一生10代でいたいって思ってたなぁ。でも次に進むために振り返ってばかりではいられない。大田もそう考えたのかも…。
1歳だった鈴香が大田と過ごしたあの夏の日々を思い出すことはないでしょう。それでも大田にとっては次に進むためには確かに必要な時間だったはず。読後、少しの切なさとあたたかい涙が溢れること間違いなし!

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