2021年6月 書評テーマ【心のままに遊覧の旅へ。旅情を誘う写真集】

ここは、架空老舗書店の晴天書房。

看板娘のあんずと、常連で本好きの女性ライターたちが、おすすめの本を紹介します。

 

お店番のあんずです。

「フランスへ行きたしと思えども、フランスはあまりに遠し」と詠んだ萩原朔太郎。せめて、写真集を手にして世界遊覧はいかがでしょう?

オススメの『旅情を誘う写真集』を、お店の常連さんに聞きました。 

 

晴天書房の常連たち

手づくり好き2男児ママ マロン
海外旅行では、観光名所より何でもない道や公園を歩いている時間が好き。素敵な街角には目がない。

 

18きっぷLOVER ぐっち
「この街とヒミツをつくる。」のコピーが好き。些細だけど、自分にとっての感動を持ち帰る場面を映したよう。

 

神に跪く。 Yummy
氏神から伊勢神宮まで詣でると、神域を肌で感じてしまう。写真集に惹かれて宗像大社で合掌したときは感涙してしまって困ったわ。

あんず
あんず
こんな常連さんたちがおすすめする「旅情を誘う写真集」とは?

 

“見えない部分“まで楽しめる
妄想旅行にぴったりの一冊。

created by Rinker
光文社
【内容紹介】
モロッコ、ギリシャ、トルコ、スペイン、クロアチア・・・。活気ある市場や山に囲まれた港町、丘の斜面の旧市街など、世界中のグッとくる小径の写真を80点以上掲載。四季それぞれに歩きたい風景が切り取られていて、見知らぬ街を散歩している気分が味わえる。

【ここにグッとくる!】

NHKの「世界ふれあい街歩き」をご存じですか?海外の街を歩きながら紹介する番組ですが、カメラが完全に旅人目線でリポーターの登場はなし。街の人もカメラに向かって話しかけてくるので、本当に街を歩いているような錯覚に陥ります。それと同じ楽しさを味わえるのが本書。「美しい路地裏を妄想ウォーク」というキャッチコピー通り、1ページめくるたびにフォトジェニックな「さんぽ道」に迷い込みます。

カラフルな家並みに、かわいらしいよろい戸の窓が並ぶイタリアの街角。壁や階段、全てが地中海のように鮮やかな青に塗られたモロッコの路地。古い石造りのアーチに囲まれ、ぼうっとランプに照らされて幻想的に浮かび上がるクロアチアの石畳の小径。細い道、曲がりくねった道で視界が遮られているからこそ「あの先に何があるんだろう?」と想像力がかきたてられる!さあ、あなたも脳内トリップに出かけましょう。

あんず
あんず
路地裏って、なんかそそられますよね…

 

スローな旅の、感動の一瞬
どこかにある日常をもとめて

【あらすじ】
鉄旅ファンの必需品である「青春18きっぷ」。年3回の発売にあわせてJRの駅に掲示された、1990年以降の告知ポスター74点を一冊に。25年間このポスターを手掛け続けた著者が、制作にまつわる背景やエピソードを初めて解説した、ファン待望の写真集。

【ここにグッとくる!】

 「このポスター、覚えてる…」というのが何枚かあった。まだ見ぬ景色に秀逸なコピーが光る一枚。それが駅に貼られると、長期休暇を前に旅への期待が高まってくる。

本書では、その裏側にある作り手たちの苦労も明かされる。「最高の一瞬」を切りとるために何日も同じ場所で粘ったり、季節感を出すために花を植えたり。企画にあう場所をカメラマンが探してくるなど、”足で稼ぐ”一面もあったようだ。

それらはどこか、18きっぷの旅に似ている。時間や行動に制約ができるものの、出会う景色や人とのふれあい、行程が果たされたときの達成感に代えがたいものがあるからやめられない。

スピード重視の時代に、あえて鈍行を選ぶ。それは、知らない”日常”を前に自身の輪郭を浮かび上がらせることでもある。撮影場所が特別な駅でないことも、「そこで暮らしたかもしれない人生」を想像させるロマンがある。移動が制限された今だからこそ、旅の本質を見事に活写した一枚一枚をぜひ堪能してほしい。

見た瞬間に、場所だけでなく時間もトリップするような、不思議な感覚を味わえます

 

 

神宿る巨岩、古代の宝物に
生と死のエネルギーを感じる。

created by Rinker
小学館
【内容紹介】
荒れ狂う海の向こう、沖ノ島は祭祀の島である。今なお禁忌が守られる沖ノ島でなぜ祭祀が執り行われていたか、一般的には玄界灘における航海の安全を祈るものとされているが、記録がないから解明されていない。その沖ノ島に凝縮するエネルギーを感じたままに収めた渾身の写真集である。

【ここにグッとくる!】

まず、あの藤原新也が沖ノ島を撮った!というので、私の中では衝撃が走った。バブルに向かう日本の暗部を捉えベストセラーになった『東京漂流』の写真家であり作家である彼が、2013年に宗像大社の協力により上梓した写真集『神の島 沖ノ島』。藤原新也が神の力が漲る沖ノ島の自然と海の正倉院と呼ばれる古代の国宝と対峙した魂の記録である。

「撮る前に宝物の名称は頭に入れなかった。その名称に引きずられて宝物を見る眼が曇ることも考えられるからだ。無垢の心で宝物と対面し、感じたものを撮った。それが伝わればよいのではないかと思う。」

立ち会った神官でさえその神がかりな撮影現場に正座したという、静寂の中の格闘技のような凄さが、波動のように伝わる写真群は見る者の魂までも震わせる。

2017年、その沖ノ島は「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群として、ユネスコ世界遺産に指定された。

こちらに迫ってくるような写真に圧倒されます!

紹介した本まとめ

created by Rinker
光文社
created by Rinker
小学館
今すぐ、旅に出たくなる!