ここは、架空老舗書店の晴天書房。私はお店番のあんずです。
コロナ禍の生活にも少し慣れて、
旅行もまた解禁されてきましたね!
この機会を逃すまい!2023年最初のテーマは「紀行」ですっ
みなさんが、思わず旅に出たくなるような
そして、その旅のお供に持っていきたくなるような本をご紹介しましょう。
お店の常連さんに、おすすめの本を聞きました。
晴天書房の常連たち
南の島が恋しい。 YUMMY 寒冷低気圧で身も凍る寒さの毎日。肩は凝るわ、冷えるわ・・・・そんな時季だから、せめて小説では、陽光降り注ぐ暖かな南の島へひとっとび。
旅行好きの計画下手 ひかりん 旅行は好きだけど、きっちり・ガッツリ予定を立てるのは苦手。どちらかと言うと弾丸旅の方が好み
17時のヒロイン よっすー 2本目の遠近両用眼鏡を買いました。老眼は悲しいけどスペアの眼鏡を気軽に買える身分になれたのは嬉しいことかも。
不思議な旅人たちと訪れる
小さな島の美しい物語。
【あらすじ】大陸から隔絶した小さい南の島に住むティオ。父が経営するホテルを訪ねて来る、ちょっと不思議な旅人たちのお世話をしながら、つつましくも心豊かに成長していく少年の物語。受取人が必ず訪ねてくるという不思議な「絵はがき屋さん」、花火で描く「空いっぱいの大きな絵」など美しい10篇を収録。
プレゼンテーター:
パラオに行きたしと思えども。YUMMY
旅なら南の島の小説がいいなぁと探していて、出会ったのが池澤夏樹の少年の成長物語。パイナップルの半分をふせたような島は、作者が何度も足を運んで、愛したであろう幸福感が漂っている。
ある日、やってきた日本人カップルは、Tシャツに半ズボンなのに山登りの靴をはいていて、ムイ山に登山に来たという。しかし、島に唯一のムイ山には登山道はなくジャングルに囲まれ、島人でも登ったことのない山。彼らが憧れとして持参した山頂からの風景はヘリコプターで頂上に運ばれた人が撮影したものだった。「帰りたくなかった二人」は、作者を彷彿させる一篇。
児童文学の季刊誌「飛ぶ教室」に連載したもので、土地の精霊の話や魔術師のような得たいの知れない旅人の話などそれぞれに魅惑的で、南の島のきらきらと輝く海や陽光にまばゆい砂浜を舞台に、読む人を別世界へと誘う。
1992年に41回小学館文学賞を受賞。

出かけるだけで意味がある
出会いもトラブルも「成果物」
【あらすじ】売れないアラサータレント“おかえり”こと丘えりか。唯一出演していたテレビの旅番組を打ち切られた彼女が始めたのは、人の代わりに旅をする「旅代理業」だった。おかえりは行く先々で出会った人々を笑顔に変えていく。心あったまる旅物語。
プレゼンテーター:
旅行好きの計画下手 ひかりん
元アイドル、いま旅人の主人公・おかえりは、唯一出演していた旅番組を打ち切られてしまう。そんな時、病気で動けない娘の代わりに旅をしてほしいという依頼が舞い込んできたことで旅代行業がスタートする。
登場する場所は、北海道礼文島、秋田県角館町・愛媛県内子町・・・。実在する場所の風景や名物がまるで目の前に現れたかと思うくらい鮮明な描写に思わず感動して、すべて検索してしまうこと間違いなし。
依頼人の代わりに旅をして、指定された「成果物」を持ち帰ることの難しさも描かれているが、旅のビデオや会いたい人からの手紙など、依頼人の予想していなかった旅の“おまけ”に感動してしまう。旅先で人の温かみに触れることで、主人公が故郷に思いを馳せる描写にもホロリとくる。
「行ってらっしゃい」と送り出してくれて「おかえり」と迎えてくれる誰かがいることが、どんなにありがたいことなのか実感できて、なにより「今すぐ旅にでたい!」と思わせてくれます。

一つの時代が立ち去っていく。
老執事の六日間の追憶の旅
【あらすじ】執事の品格を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想いー失われつつある伝統的な英国を描き世界中で大きな感動を呼んだ、ブッカー賞受賞作。
プレゼンテーター:
17時のヒロイン よっすー
「日の名残り」は生真面目な老執事がイギリス西部を車で縦断する六日間の物語。広大な平野で一人、車を走らせ続ける彼の心にはひっきりなしに過去の記憶が去来して、さながら時間旅行のようでもある。
ともすれば退屈になりがちな主人公の問わず語りだが、ちょっとした叙述トリック的仕掛けにより、読者を飽きさせず引き込んでいく。彼は何を語ろうとし、何を明かすまいとしているのか。点々と続くその小さな謎を、隠喩のようにイギリスの美しい田園風景が彩る。
誰もがいずれ佇むことになる人生の夕暮れ。本当にこれで良かったのか?やり直せるとしたらどこだったか?でも引き返す体力など、とうに尽きている‥‥‥
桟橋で夕日を眺め立ち尽くす主人公に、老人が声を掛けるラストシーンが美しかった。信念に裏切られても、こんな風に見知らぬ人の何気ない言葉で救われることもきっとある。失意の落日のあとで、訪れる安らかな夜。長い冬の夜にぴったりの一冊ではないでしょうか。

ご紹介した本まとめ
Recent Posts