「来週、あいてる?カッパ釣りに行かない?」
もし、あなたが、そう誘われたら、なんと応えるでしょうか。
からかわれているのか、それともなにか別の意味が含まれているのか……。
ちょっと、とまどいますよね。
ところが、日本には
「いいね~、じゃあキュウリ買っとくわ!」
と、自然に応えてしまいそうな地域があるんですよ。
今回は、岩手県遠野市にある「カッパ淵」をご紹介します。
頭のネジを、少~しゆるめてお進みください!
目次
カッパを釣りにカッパ淵へ
『遠野物語』で知られる岩手県遠野市。
『遠野物語』発刊から100年になる2010年には、「怪遺産※1」の認定をうけました。
※1 世界妖怪学会(当時は水木しげるが会長)と妖怪マガジン『怪』(角川書店)が認定する、妖怪文化の普及に貢献した自然、地域、施設など
何がいても、何が起きても不思議ではないこのおおらかな町で、あなたも、ちょっとそこまで、カッパ釣りに出かけてみませんか?
まずは伝承園でカッパ捕獲許可証を手に入れよう!
カッパ淵へ行くには車があると便利です。
駐車場は、JR遠野駅から北東方面へ車で10分、国道340号線沿いにある「伝承園」と共同です。
伝承園には、遠野の伝統的な家屋「曲り家」や、『遠野物語』の話者である佐々木喜善の記念館などがあります。
お食事処では、遠野の伝統料理、「ひっつみ」や「けいらん」などもいただけますよ。
また、「カッパ捕獲許可証」(1枚200円・税別)もこちらで販売しています。
カッパ捕獲許可証は、カッパ淵で提示するわけではありませんが、持っていないと、万が一、カッパが釣れたときに、遠野市観光協会の承認(カッパ捕獲7ヶ条・第7条)を受けることができないかもしれません。
カッパ釣りの記念にもなるので、このドキドキ感を忘れないためにも、持っておくのがおすすめですよ。
カッパ捕獲許可証を購入すると、キュウリのついた竿を借りることができます。
カッパ捕獲許可証とキュウリのついた竿の準備ができたら、さっそくカッパ淵へ向かいましょう!
いざ、カッパ淵へ
伝承園からカッパ淵へは、歩いて10分ほど。道すがら、カッパに思いをめぐらせます。
(カッパって、ホントにいる?なにか別の生きものと見間違えたのでは。めっちゃ大きなカエルが、たまたま立ちあがった場面に出くわした、とか。「もうもう」って鳴くらしいから、ウシガエル?遠野のカッパは赤いらしいけど、さっき伝承園に座っていたカッパ、緑だったよね。っというか、ホントに釣れたら、どうするんやろう……?)
そんなことをぐるぐると考えながら、ホップ畑沿いの道を歩いて行くと、
まもなく「常堅寺」に到着します。拝観時間内であれば、境内の中を通らせてもらえますよ。
中には「カッパ狛犬」と呼ばれる、頭に皿のようなくぼみのある狛犬さんがいるので、お時間があれば探してみてくださいね。
常堅寺の境内を抜けて、田んぼ道を曲がれば、
カッパ淵に到着です!
カッパ淵では、2体のカッパ像が出迎えてくれます。
カッパ像の後ろのお社は「乳神様(ちちがみさま)」といい、授乳期間中のママがお参りすると、母乳の出が良くなるそうですよ。
お社の裏手では、誰かがキュウリの竿を固定していました!
達人!?
おそらく、「2代目カッパおじさん※2」と呼ばれる方で、途中で一度、様子を見に来ていたそうです。
※2 「民話の里・遠野でカッパを捕獲? カッパおじさんに会いに行く。/East Japan Railway Company」
遠野では有名な方なので、お会いしたかったです。残念!
カッパ淵には、こんな看板も。
実は、子どものころ、カッパは人や馬を川に引きずり込んでおぼれさせる、と聞いたことがあったので、美男でも美女でもありませんが、急にこわくなってきてしまいました。
普段なら「カッパなんていないって!」と笑えるのですが、遠野ではなぜか、そう言いきれないんですよね。
いない、と言いきる方が違和感あるような。
きっと、『遠野物語』のころから変わらない、見えない存在を拒まない遠野の人々のふところの深さが、この町の、この雰囲気をつくりだすんだろうな、と思いました。
次は、遠野物語に登場するカッパの話と、それにまつわるエピソードについてご紹介します。
『遠野物語』からひもとくカッパの正体とは?
『遠野物語』では、カッパが出てくる話が5話あります。
ここでは、それらの物語のあらすじと、カッパの正体について、一緒に見ていきましょう。
『遠野物語』に登場するカッパたち
『遠野物語』のカッパ※3の話を、簡単にご紹介します。
※3 紹介文では参考文献に合わせて「河童」と表記
◆ 第55話「河童の子」
松崎村の川端の家の嫁に河童が通い、嫁が河童の子を身ごもりました。産まれた子の手には水かきがありました。実は、その娘の母親も、河童の子を産んだことがあるそうです。
◆ 第56話「かくされた河童」
上郷村でも全身真っ赤で大きな口をした河童が産まれました。不吉と思い捨てたものの「見世物にしたら儲かるのでは」と捨てた場所を見ると、その姿はありませんでした。置いた場所からは2mほどしか歩いていなかったそうです。
◆ 第57話「河童の足跡」
雨の日の翌日に、川岸の砂の上に河童の足跡を見ることがあります。猿と同じように親指が離れ、あとは人間の指によく似ています。長さは約9センチに満たないほどです。
◆ 第58話「姥子淵の河童」
馬を川へ引きずり込もうとした河童を捕まえました。村の人が集まって殺すか逃がすか相談した結果、今後は村の馬にいたずらしないことを約束させて逃がしてやりました。
◆ 第59話「遠野の赤河童」
『遠野物語』の話者、佐々木喜善のひいおばあさんが幼かったころ、庭のクルミの木の間から真っ赤な顔をした男の子(河童)がこちらをじっと見ていたそうです。
『遠野物語』は創作話ではなく、遠野の佐々木喜善が柳田國男に語った、遠野の不思議話です。
書かれた当時は、話の当事者や家族が存命である場合もあったので、どちらかというと、「むかし話」ではなく「うわさ話」ですよね。
喜善は村の人から、「身内の恥をいいふらすな!」と叱られたそうですよ。
うわさ話なだけに「オチ」がないものもいくつかありますが、その分、信ぴょう性が高まり、どこまでも想像が広がるのです!
☆ ONE POINT ☆
今、販売されている『遠野物語』には、注釈がついていることがあります。これをあわせて読むと、その話がまったく違うものになることも。本文ではひどい話でも、注釈を読めばその背景や後日談などもわかり、「そういうことか」と納得することもありますよ。
遠野のカッパが赤い理由
信ぴょう性が高いと言っても、「やっぱりカッパはいたんだね!」とは、なかなか思えませんよね。
では、『遠野物語』に出てくるカッパたちは、何をあらわしているのでしょうか?
遠野のカッパが赤い理由としては、
「子減らしで川に流された赤ちゃんを、誰かがカッパと間違えた」
または、
「赤ちゃんを流したあと、子どもたちが川に近づかないように赤いカッパの話にした」
などの説があります。
以前に書いた「座敷わらし」の場合もそうでしたが、民話には、このような「話のもとになる実話」があるものなんですね。
救われるのは、遠野の人々が、カッパを嫌わず大切にしていること。
カッパの正体が、赤ちゃん、精霊(妖怪)のどちらであっても、「あったことはあったこと」、そして「いるものはいる」。
遠野の人々は、あるがままを、なにも否定することなく、受け入れているように感じました。
まとめ
いかがでしたか?
今回は、遠野カッパ淵でのカッパ釣りと、遠野の赤いカッパをご紹介しました。
遠野では、「ばあちゃんが迷わないように」と、亡くなった方を送ったり迎えたりする行事を、形式的ではなく、とても丁寧におこないます。
また、お盆の時期に知らない人訪ねてきたら、「よそのおうちのご先祖かも」と、丁重にもてなす風習もあるそうです。
あちらの世界とこちらの世界が、常にとなりあわせにあるような不思議な町、遠野。
都会の無機質な毎日に疲れたら、ちょっとそこまで、カッパ釣りにいきませんか?
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【出典】
◆時事用語事典 怪遺産/imidas
◆遠野の厳選お土産品を販売!【一般社団法人遠野市観光協会】
◆民話の里・遠野でカッパを捕獲? カッパおじさんに会いに行く。/East Japan Railway Company
◆『遠野の休日』(一般財団法人 遠野市観光協会)
◆『口語訳 遠野物語』(柳田圀男著・佐藤誠輔訳 河出書房新社 2014年)
◆『視えるんです。ミミカの遠野物語』(伊藤三巳華著 株式会社KADOKAWA 2014年)
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