岩手県との県境にある宮城県登米市。
NHKの連続テレビ小説「おかえりモネ」の舞台のひとつとなっているこの町には、ちょっとワケありな郷土料理があるんですよ!
今回は、その郷土料理「はっと」をご紹介します。
目次
登米市の郷土料理「はっと」とは
宮城県は、いわずと知れたお米の名産地です。
ところが、「はっと」は、なぜか小麦粉の料理なんですよね。
米どころの郷土料理なのに、なぜお米を使わないのでしょうか。
料理名は領主への皮肉?
江戸時代、伊達藩は新田開発をおこない、登米地方は全国有数の米どころとなっていました。
ところが、伊達藩は、お百姓さんが年貢を納めたあとのお米もさらに買い上げ江戸に送っていたので、当のお百姓さんたちには、なかなかお米があたりません。
とうとう、「百姓食物常々雑穀ヲ可用食之事」(百姓は米を食べずに雑穀を食べるべし)という百姓法度まで出てしまいました。
お米を禁止されたお百姓さんたちは、代わりに小麦を育て、小麦粉のだんごと野菜の入ったスープを食べるようになりました。
お百姓さんたちがそのスープを好んで食べるようになると、この地を治めていた領主は「百姓たちが小麦ばかり作って米を作らなくなるかもしれない」と心配し、今度は、このスープを食べることを御法度(禁止)にしたのです。
そこから、お百姓さんたちはこの料理のことを、「はっと」と呼ぶようになったそうですよ。
なんだかヒドイ話ですよね。
お百姓さんたちはもう、やけくそで料理名をつけたんじゃないかと思えてきます。
ただし、「小麦粉だんご入り野菜スープ」と「はっと」という料理名はなかなか結びつかないので、「なんで、はっとなの?」と思う方も多いはず。
これから先、誰かが「はっと」の説明をうけるたびに、この「領主のいじわるエピソード」がさらされ続けると思うと、逆に領主が気の毒に思えてきたりもするのです(笑)
四百年のときを超えて「御法度」に反撃!
登米市では、はっとの由来となった「御法度エピソード」をもとに、市のPR動画を製作しました。
Photo by kii watanabe
☆ 登米市PR動画のストーリー ☆ はっとをよそったお椀の上に、ビシバシと「御法度」のフダをおいていく黒ずくめの男たち。はっとを食べられなくなった市民のために、1人の老婆が立ち上がる!登米市の観光地を舞台に繰り広げられる、老婆と黒ずくめの男たちのキレッキレアクション。
2017年、登米市はこのPR動画で「第6回観光映像大賞(観光庁長官賞)※」を受賞したんですよ!
※ アジア最大級かつ国内唯一の米国アカデミー賞公認短編映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア」で、創造性・振興性・話題性を含んだ観光プロモーション映像に送られる賞
お米もはっとも禁止されたつらい歴史を逆手にとって地域をPRし、観光映像大賞までとるなんて、現代の登米市はホントにたくましいですよね。
四百年前、御法度に苦しめられたご先祖様たちも、きっと、この快挙を喜んでくれていることでしょう!
毎年大盛況!はっとフェスティバル
登米市では、2004年から「日本一はっとフェスティバル」を開催しています。
登米市内だけではなく、山形県や岩手県など、近隣地域からもはっとに似たご当地グルメが出店するので、各地のはっとが味わえるんですよ。
会場には、基本のしょうゆ仕立てから、カレーはっと、海鮮はっと、また、あずきやずんだ餡に絡めた甘味系まで30種類以上のはっとがならび、来場者の投票で、その年の「はっと大賞」が決定します。
ここ数年は、「牛スジはっと」「赤豚カレーはっと」「油麩と鶏つみれ入り舞茸きのこはっと」の3品で上位争いが繰り広げられているようですね。
鶏つみれ入り、おいしそうです!
2020年は、新型コロナウィルス感染拡大防止のため中止となりました。
開催月は毎年12月。2021年は、開催されるといいですね!
各地に見られるはっとの仲間
さて、はっとが「小麦粉だんご入り野菜スープ」となると、それと似た料理がいくつか思い当たります。
はっとはつまり、アレですよね?
はっとの正体は「すいとん」
小麦粉だんご入り野菜スープといえば、すいとんです。
すいとんは全国各地で見られ、九州ではだご汁、中国・四国地方ではだんご汁、少数派として登米市のはっと、青森県のひっつみなどの呼び方があります。
特徴としては、だご汁・だんご汁は味噌ベース、はっと・ひっつみはしょうゆベースが多いようです。
では、同じしょうゆベースのはっととひっつみは、何が違うのでしょうか?
青森県のひっつみとの違い
私は東北旅行で、はっと、ひっつみの両方をいただきました、が。
◆はっとPhoto by kii watanabe
◆ひっつみ
Photo by kii watanabe
違いがまったく分かりませんでした。
どちらも、だんごがつるんとしておいしかったですよ。
作り方や材料も、ほぼ同じのようです。
◆ひっつみ・はっとの作り方
【材料】(大丼7~8杯分)
小麦粉(強力粉)500g
水 2カップ弱
鶏肉 200~250g
にんじん 中1本
ごぼう 中1本
ネギ 3本
酒 少々
しょうゆ 適宜
だし汁 10カップ
【作り方】
1.小麦粉に水をまぜ、耳たぶより少し柔らかくなるまでこねる
2.1にぬれたフキンをかけ、1時間~半日位ねかせる
3.鶏肉は一口大に、人参・ごぼうはささがきにする
4.鍋にだし汁、鶏肉、人参、ごぼうを入れて煮立て、あくをとる。
5.2のひっつみを左手に持ち、両方の指で薄くのばしてちぎり、煮立った4の中に一枚ずつ入れる
6.醤油、酒で味付けをして、斜め切りのねぎを入れて火を止める。
小麦粉だんごは、うどんのように踏んでコシを出したり、下ゆでしたりする必要がないので、ささっと作れて便利ですよね。
はっともひっつみも、ひと椀で主食もおかずも食べられる、優秀な郷土料理なのです!
ちょっと気になる「あずきばっと」
登米市の「あずきはっと」と似たものに、青森県の「あずきばっと」があります。
あずきばっとは小麦粉だんごではなく、小麦粉を練って平たくのばした麺に、あずきを絡めて食べるそうですよ。
ただし、好き嫌いがあるようで、テレビであずきばっとを紹介していた青森県の女性が、「私は食べませんけどね」と言っていたのが興味深かったです。
関西地区で、たまに勃発する「ところてんにかけるのは三杯酢?黒みつ?」の論争を思い出しました。
食事で食べるものを甘くするのは、抵抗がある方が多いのかもしれませんね。
私は、食事のはっとも、おやつのはっとも、三杯酢、黒みつのところてんも、ぜ~んぶおいしくいただきますよ!
まとめ
いかがでしたか?
今回は、宮城県登米市の郷土料理「はっと」をご紹介しました。
料理名からはまったく想像できませんが、つまりはすいとん、ということですね。
それにしても、「なぜはっとなの?」と聞かれるたびに、領主のいじわるエピソードが披露され続けるこのからくり、ちょっとおもしろいですよね。
私も、理不尽な目にあったときには、ぜひ参考にしようと思いました(笑)
【データ】
◆登米市シティプロモーション動画「登米無双」シリーズ
【出典】
◆「第14回日本一はっとフェスティバル」が開催されました
◆「小麦粉団子汁」の呼び名は? 「すいとん」優勢のなか、九州・西日本で健闘したのは…
◆はっと汁 宮城県
◆ひっつみ 青森県
◆だんご汁 大分県
◆だご汁 熊本県
◆すいとん/日清製粉株式会社
◆~“舞妓さんちのまかないさん”のあずきばっと~より あずきばっと/グレーテルのかまど
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