遠野ふるさと村で里山の暮らし体験。いろりを囲んで聞く『遠野物語』

遠野ふるさと村曲り家

遠野ふるさと村をご存知ですか?

岩手県遠野市にある、ひとつの農村を丸ごと再現した、いわば、「屋外博物館」です。

遠野の伝統的な家屋「曲り家」や、それらを含む田園風景がとても美しく、NHK大河ドラマ「龍馬伝」や「軍師官兵衛」、映画「蜩の記」など、数多くの作品で撮影に使われています。

今回は、そんな遠野ふるさと村や、そこで「まぶりっと(守り人)」たちが語る『遠野物語』、さらに、村で撮影された映画などについてもご紹介します!

リアルな里山を体感できる遠野ふるさと村

遠野ふるさと村では、たくさんの時代劇や映画の撮影がおこなわれていますが、村にある家屋や田んぼは、決して仮設の「撮影セット」ではありません。

まずは、遠野ふるさと村にある家屋などについて、簡単にご紹介します!

遠野の伝統的家屋「曲り家」とは?

遠野ふるさと村の中には、7つの家屋があり、そのうち6つは、「曲り家」です。

遠野ふるさと村曲り家

曲り家とは、人間の居住スペースと馬小屋がつながっている、L字型の民家のこと。

馬小屋を家屋の中に入れることで、馬を寒さから守り、いろり端から馬のようすを見ることができるようになっています。

古くから馬の産地としても知られる遠野では、農作業や材木運びなどを助けてくれる馬を、とても大切にしていたんですね。

「まぶりっと(守り人)※1」さんのお話では、「昔は、馬のごはんをしてから、次がお嫁さんのごはんだった。お嫁さんを粗末に扱っていたわけではなく、それだけ馬が大切だったということなんですよ。」とのこと。
※1 遠野の文化と伝統を守る人

曲り家は、馬への愛情のあかしなんですね。

ちなみに、曲り家に対して、まっすぐな家屋のことを「直屋(すごや)」といいます。

遠野ふるさと村の中では、「こびる※2の家」だけが直屋となっています。
※2 こびる(小昼)とは遠野の方言でおやつのこと

遠野ふるさと村直屋

「こびるの家では馬を中に入れてあげないの?」と、思ってしまいそうですが、こびるの家は1762年にたてられたもの。

ほかの曲り家は、江戸中期以降のものが多いので、おそらく、こびるの家ができた時代には、曲り家はまだなかったのではないかと考えられます※3
※3 「18世紀後半に馬をもてるようになった盛岡藩領の農民に、直屋を曲り家に改造することがはやった」(山川日本史小辞典)

遠野ふるさと村の曲り家集落

遠野ふるさと村の曲り家は、実際に使われていたものを移築しているので、ライフラインさえなんとかなれば、本当に住めるのではないかと思うほど本格的な家屋です。

遠野ふるさと村曲り家

遠野ふるさと村曲り家

遠野ふるさと村曲り家

庭の畑の野菜も、もちろんほんもの。

遠野ふるさと村曲り家

縁側に座ってぼんやり、または、たたみの上でゴロゴロしたくなりますね~。

遠野ふるさと村曲り家

農耕馬、という感じではありませんが、馬小屋にはちゃんと馬も。

遠野ふるさと村曲り家

こちらは、放牧されていた「白雪」ちゃん。

遠野ふるさと村白雪

映画『愛しの座敷わらし』で飯島直子さんと共演しました。

この日も、白雪ちゃんの向こうで、なにやら撮影がおこなわれていましたよ。

遠野ふるさと村白雪

遠野ふるさと村には、曲り家以外にも、炭焼き小屋や水車小屋、鎮守の森、田んぼ、畑、蓮の池、などがあります。

行かれた際は、ぜひ、頭の中をからっぽにして、村の中をぶらぶらとお散歩したり、曲り家の縁側でぼんやりしたりして、日本の原風景を満喫してくださいね!

村で体験できる農村生活プログラム

遠野ふるさと村では、曲り家などの建物や風景を楽しむ以外に、田植えや稲刈り体験など、遠野の農村生活を体験できるプログラムが用意されています。

遠野の郷土料理「ひっつみ」「けいらん」作りや、ハンカチ染め、竹とんぼ作りなど、子どもたちが喜びそうなものもたくさんありますよ!

どのプログラムも、7日前※4までの予約が必要です。
※4 田植え・稲刈り体験は2か月前まで

あらかじめホームページなどでご確認のうえ、ご興味のある体験プログラムに参加してくださいね。

また、語り部さんが『遠野物語』を聞かせてくれる「昔話し」というプログラムもあるのですが、実はわたくし、予約なし、料金もなしで、ちゃっかりお話を聞かせていただくことができたのです!

次は、そのなりゆきと、そこで聞かせていただいた『遠野物語』のお話をひとつ、ご紹介します。

語り部さんが伝える『遠野物語』の真髄

曲り家を見学しているときに、いろいろと説明してくれた女性のまぶりっとさん。

大阪から来たのだと伝えると、「遠野の語り部の話は聞いた?」と尋ねられました。

遠野では、語り部さんによる昔話が人気です。

私たちが泊まったホテルでも、語り部さんによる昔話が聞ける時間があったのですが、ホテルへの到着が遅くなり、聞き逃してしまいました。

そのことを伝えると、なんと、そのまぶりっとさんがお話ししてくださることに!

「ホントは予約が必要だけどね、ちょっとだけね」と、近くにいた数人のお客さんにも声をかけ、急遽、語り部さんの『遠野物語』がはじまりました。

いろり端で聞く『遠野物語』

この日はとても暑い日でしたが、みんなでいろりを囲みました。

遠野ふるさと村曲り家いろり

お話は、「むがすあったずもな(昔あったそうな)……」と、岩手のことばではじまります。

それは、ものがたりの世界へみちびくおまじないのようで、私たちは、すぐにその世界に引き込まれていきました。

ものがたりは終始、岩手のことばで進みますが、まぶりっとさんいわく、「これは標準語の岩手弁。ホントの岩手弁だと、お客さんみんな、ぽかーんとしちゃうから」ということです。

この日は、『遠野物語』から、オシラサマの話、カッパの話、座敷わらしの話などを聞かせていただきました。

その中から、座敷わらしのお話と、それにまつわるエピソードをご紹介します。

『遠野物語』18話~孫左衛門のザシキワラシ~

(口語)

ある年の秋のころ、
村の男が橋のあたりで休んでいると
見かけたことのない
ふたり連れの女の子に会いました。

ふたりとも、何か考えるように
うつむき加減でやってきます。

「おめだち、どっから来たべ」
男が声をかけると
ふたりはハッと驚いたようでしたが

「おら、孫左衛門の家から来たどこだす」
と答えました。

男が重ねて
「これがら、どごさ行ぐどごでがんす」
と尋ねると

「ある村の、何某の家さ行ぐごどに決めんした」
と答えました。

その何某の家というのは
少し離れた村にあります。

男は
(ああ、これはザシキワラシだな。
ザシキワラシに出られては
孫左衛門の家も終わりだな)
と思いました。

それから数日後、
孫左衛門の家では主従二十数人が
きのこの毒にあたって
わずか一日で死に絶えてしまったそうです。

ひとりだけ生き残った七歳の女の子も
年をとっても子供がなく
先年、病気で亡くなりました。

どんどはれ。

★ ONE POINT ★
「どんどはれ」は岩手県の方言で、民話の語り終わりにつけることばです。「ものがたりはここまでですよ」「こちらの世界にもどって来てください」という意味が込められています。「どんど」は夜なべ仕事などでひざの上などに落ちるワラくず、「はれ」は「払え」がなまったもの。そろそろ切り上げてワラくずをきれいに払って寝ましょう、ということだそうですよ。

ものがたりから読み解く先人たちのくらし

これが『遠野物語』にでてくる座敷わらしのお話です。

座敷わらしは、北上山地を中心として信じられている、旧家に住むという精霊で、体は小さく顔は赤いそうです。

座敷のほかに蔵にも現れるので、「クラボッコ」などともよばれ、座敷わらしが住む家は栄え、去ると衰えると信じられています。

また、このような民話には、「裏のカオ」があることも多く、座敷わらしとは、人柱として家の土台に男女の子どもを埋め、その霊をその家の主にしたもの、という説があります。

ほかにも、旧家などにハンデを持った子が生まれた場合、奥座敷や蔵に隠す風習があったらしく、存在しないはずの彼らが出すもの音を、周りの人が座敷わらしと呼んでいたのではないか、という説もあります。

民話がどういうふうに生まれるのかは分かりません。

しかし、そこには、私たちの先祖が、どのように貧しさや病気、解明されていない現象などと対峙してきたのかが、少しだけ、にじんでいるように感じました。

遠野ふるさと村で撮影された作品

遠野ふるさと村では、古き良き里山風景がみごとに再現されているため、多くの時代劇や映画の撮影がおこなわれています。

その中から、いくつかの作品を抜粋してご紹介します。

NHK連続テレビ小説偏

◆『どんど晴れ』(2007年放送)
「大野どん」の曲り家が撮影で使われました!

遠野ふるさと村曲り家

NHK大河ドラマ偏

◆「龍馬伝」(2010年放送)
龍馬と加尾が出会うシーン。ここで龍馬(福山雅治)たちが上士に土下座しました!

遠野ふるさと村竜馬伝

◆「軍師官兵衛」(2014年放送)
炭焼き小屋の前の道を官兵衛(岡田准一)が馬で駆け抜けました!

遠野ふるさと村軍師官兵衛

映画偏

◆「悪魔の手毬歌」(2009年版)
金田一耕助(稲垣吾郎)が自転車でこの道を走りました!

遠野ふるさと村悪魔の手毬歌稲垣吾郎

◆「愛しの座敷わらし」
メインロケ地となりました!田園風景がとても印象的でした。

遠野ふるさと村愛しの座敷わらし

◆「蜩の記」(2014年公開)
メインロケ地となり、肝煎りの家が秋谷(役所広司)の邸宅となりました!

遠野ふるさと村蜩の記

これらの他にも、「天地人」「白骨の語り部」「浅見光彦最終章」「風鈴火山」「利家とマツ」「水戸黄門」「続・遠野物語」「やじきた道中てれすこ」、などの撮影がおこなわれました。

遠野ふるさと村は、農村風景を維持することで、たくさんのドラマや映画を支えてくれているんですね。

遠野ふるさと村に行かれる際は、撮影された映画をいくつか見ていくと、楽しみ方も変わるかもしれませんよ!

まとめ

いかがでしたか?

今回は、遠野ふるさと村と曲り家、そして『遠野物語』について、少しずつご紹介しました。

遠野には、不思議な話、おもしろい話がまだまだ、たくさんあります!

遠野カッパ淵での「カッパ釣り」などについても別記事でご紹介しますので、ぜひ、頭をゆる~くして、見に来てくださいね!

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【遠野ふるさと村】
《ホームページ》
http://www.tono-furusato.jp/index.html
※新型コロナウィルスの感染状況などにより、営業時間が変わることが考えられます。営業時間や料金、お食事、体験プログラムの予約などについては、必ずホームページでご確認ください

【出典】

親から子へ、子から孫へ、語り継がれてきた遠野物語。その物語を今に伝える「語り部」を訪ねました。/まなびジャパン
◆『口語訳 遠野物語』(柳田国男著 佐藤誠輔訳 河出書房新社 2014年)
◆遠野ふるさと村パンフレット
◆遠野ふるさと村ロケ地マップ(平成27年1月現在)
◆『遠野の休日』(一般社団法人遠野市観光協会)
◆『cartopia No.519』(富士重工業株式会社カートピア編集室)
◆『口語訳 遠野物語』(柳田国男著・佐藤誠輔訳/河出書房新社 2014年)