天界はみな兄弟?『聖☆おにいさん1巻』に見るブッダとイエスの不思議な関係

聖☆おにいさんコミックレビュー

すでにアニメ化、ドラマ化されている人気コミック『聖☆おにいさん』。

目覚めた人ブッダと神の子イエスが、東京の立川でバカンスを過ごすという、なかなかレアなストーリーです。

天界では絶大な地位にあるブッダとイエスが、下界の賃貸アパートで、家賃や生活費をやりくりしながら暮らす様子が、ジワジワと笑いのツボを刺激します。この笑い、ちょっとクセになりますよ!

街の人たちとふれあいながら、時には意図せぬところで「奇跡」をおこしてしまう、聖人2人のハートフルコメディをご紹介します。

ご注意)この作品は2人の聖人が人として下界で暮らす様子をコミカルに描いています。2人、またはどちらかを深く信仰し、確固たる人物像をお持ちの方には楽しめない内容かもしれません。

宗教のイメージを変える『聖☆おにいさん 1巻』の魅力

『聖☆おにいさん 1巻』の魅力は、なんといっても、聖人2人が下界へバカンスに来るという、希有なストーリー設定です。

あらゆるシーンで、すかさず紹介される2人のリアルエピソードにもご注目。

それでは、『聖☆おにいさん 1巻』のあらすじ、見どころ、感想を見ていきましょう!

『聖☆おにいさん 1巻』のあらすじ

世紀末を無事に乗り越えた2人の聖人、「目覚めた人ブッダ」と「神の子イエス」は、東京・立川にアパートの一室を借りてバカンスを過ごすことに。

毎月、天界から振り込まれるささやかな費用で家賃や生活費をやりくりするため、ブッダはいつも節約モードです。

それに対して、奔放なイエスは、おもしろいもの、新しいものに目がなく、余計な散財をしてはブッダに叱られるしまつ。

そんな2人が、町のイベントや施設で人々とふれあい、時には思いがけず「奇跡」をおこしながら、ゆる~く下界での日々を楽しむ物語です。

絶妙なキャラ設定にご注目!

現代社会とのズレを隠しきれない、聖人2人の暮らしぶりは、見どころ、笑いが満載です。

ここでは、その中から、選りすぐりの注目ポイントを3つ、ご紹介します。

【1.キャラ設定にぬかりなし】
第1巻、というよりも、この物語全体の見どころということになりますが、ブッダとイエスのキャラ設定がもう神業です。

生前のブッダやイエスはこんな人格だっただろう、ということではなく、立川にバカンスに来ようと考える、この物語の中での2人のキャラとしてピッタリだということです。

真面目なブッダと自由なイエスの性格のバランスが絶妙で、お互いの行動を突っ込みながら繰り広げられる2人の日常を、こちらからも突っ込みながらずっと見ていたくなります。

【2.本当はすごい人アピール】
庶民的なキャラ設定をされていても、天界で絶大な地位にあることは、物語の中でも変わりません(リアルな天界を知っているわけではありませんが…)。

時々出てくる「2人はこんなにすごい人なんだぞ」というエピソードを見て、「おぉ…」となりますが、本人たちがお互いの尊いエピソードの意味を勘違いしていて、また笑えるのです。

ちなみに、作中で紹介されるブッダやイエスのリアルエピソードには、マンガ顔負けのびっくりエピソードもあり、思わず検索してしまうことも。

聖人たちの逸話、深追いするとなかなか興味深いですよ。

【3.おまけページの影響力】
第1巻は8話が収録されていますが、各章のあとのおまけページは、絶対に見逃してはいけないおもしろさです!

後日談やオチ的な内容が多く、このページを見逃すのは、見続けたドラマの最終回を見逃すくらい残念なことです(言いすぎた)。

本編に比べて絵は少し雑っぽいですが、その分さらっと描いた感があり、それでよくこの重要な一コマが残せるな、と毎回しみじみ感じます。

信者の皆さんに叱られない理由

ブッダとイエスがわりとコミカルに描かれるので、信者さんに怒られるんじゃないかという心配もありましたが、むしろ、仏教・キリスト教の入門書のような役割を果たしているような気もするので、大丈夫そうですね。

実際、著者の中村光さんは、仏教・キリスト教について、かなり勉強されたのではないか、と感じるシーンもたくさんあり、その点も支持される所以かもしれません。

余談ですが、数年前、中村光さんが出産のためにお休みされると聞いて、「作者さん、女性だったのか!」と驚いたことがあります。

再始動されてから、ますますパワーアップした『聖☆おにいさん』。

今後の展開も、楽しみです!

『聖☆おにいさん 1巻』をより楽しむための豆知識

聖☆おにいさんコミックレビュー聖書

次は、第1巻を読むときに知っておきたい仏教・キリスト教の逸話や、国内外での『聖☆おにいさん』にまつわるミニ情報をご紹介します。

読む前に知っておきたい3つの逸話

【涅槃(仏教)】
お釈迦さまが入滅(亡くなる)すること。お釈迦様は沙羅双樹の樹の下で、頭を北に向けて横たわり、右腕を曲げて頭の下に敷き、右側を向いて亡くなった。お釈迦様の周りには、弟子や多くの動物たちが集まり嘆き悲しんだ。
→ 第1話に関係しています。

【石をパンに、水を葡萄酒に(キリスト教)】
・悪魔に「神の子ならこの石にパンになるように命じてみろ」と言われたがイエスは「人はパンだけで生きるものではない」と断った。
・イエスが招かれた婚礼で水瓶の水を葡萄酒に変えた。
→第5話に関係しています。

【捨身(仏教)】
読み方は「しゃしん」。行き倒れて動けなくなった老人を助けるため、クマは川で魚を捕り、キツネはイモを掘り出した。何も見つけられなかったウサギは老人に火を焚くように伝え、自分を食べさせるため火の中に飛び込んだ。
→こちらも第5話に関係しています。

この「捨身」のエピソードは、人を助けるために自分の身を捧げて食べさせる、という仏教の逸話ですが、ブッダとイエスが空腹を感じたり体調を崩すたびに、マッチをくわえてあらわれる動物たちの気持ちが、作中の2人にはちょっと重いようです(もちろん食べません)。

この逸話は、後の巻でもたびたび出てくるので、続けて読まれる方は思い出してくださいね。

博物館に『聖☆おにいさん』が展示!

『聖☆おにいさん』のコミックが、一定期間、イギリス・ロンドンの大英博物館に展示されていたのをご存知でしょうか。

当初は作者の方もその事実を知らず、SNSでちょっと話題になっていましたね。

トラベルジャーナリストの寺田直子さんの問合せに対して、大英博物館(アジア部門のジャパニーズセクションチーフ)がメールで直々に回答をくださったそうですよ。

“中村光による「聖☆おにいさん」は日本展示室の焼物のゲスト学芸員二コール・ルーマニエールのお気に入りのマンガです。彼女の推薦もあり、博物館の参考図書としてこのマンガの数巻を追加しました。宗教を扱っていながら、ウィットに富み、陽気に寛容さを奨励する内容には私も感心しました。”
引用:「聖☆おにいさん」の件、大英博物館から回答が!/ハッピー・トラベルデイズ

解説付きで展示されていたようですが、イギリスの皆さんは、どう感じていたのでしょうか。

とても気になります!

放送されたアニメ・ドラマの評価は?

『聖☆おにいさん』は2013年にアニメ化、2018年にはドラマ化されています。

◆アニメ『聖☆おにいさん』

聖☆おにいさん ニュース

ブッダ:星野源
イエス:森山未來
監督:高雄統子
脚本:根津理香

◆ドラマ『聖☆おにいさん』

ドラマ 聖☆おにいさん

ブッダ:染谷将太
イエス:松山ケンイチ
監督:福田雄一

どちらも魅力的なキャストだ!と思いながら、実はちゃんと見ていないんですよね。

コミックファンとしては、自分の頭の中での世界感が大切なので、どうしてもアニメやドラマは後回しになってしまうのです。

他の方の評価を見ると、ドラマよりアニメのほうが評価は高いみたいですね。

『聖☆おにいさん』は、極端にいうと、1話まるまる「コント」のような回もあるので、声優さんも、俳優さんも大変そうです。

今回はコミックのご紹介ですが、アニメ、ドラマを見る機会があれば、しっかり鑑賞して、またみなさんにご紹介したいと思います!

まとめ

いかがでしたか?

今回は、『聖☆おにいさん 1巻』のあらすじ、見どころ、感想をご紹介しました。

(以下、少しだけネタバレがあります)

私がこの第1巻で一番好きなシーンは、イエスがアパートの窓から外を見て、のんびりと鳥の声や車の音を聞きながら、「……いい時代だなぁ……」とつぶやくところです。

イエスが生きた時代に比べたら、この時代の東京立川の毎日は、平和そのものなのだろうと思います。

この『聖☆おにいさん 1巻』は、コメディマンガの要素を強く持ちながら、こんなふうに、じんわりと平和のありがたさに気づかせてくれるシーンがいくつもあります。

バタバタと騒がしいギャグマンガと思わず、ブッダやイエスの逸話を知ることができて、何でもない日々の大切さを教えてくれて、さらにかなりの頻度で笑える『聖☆おにいさん 1巻』を、ぜひ読んでみてくださいね!

 

【データ】
『聖☆おにいさん 1巻』

◆著 者:中村光 (著)
◆発行所:株式会社講談社
◆発 行:2008年1月

【出典】
大英博物館に展示されていたマンガ『聖☆おにいさん』、その経緯とは?/はてなニュース
「涅槃図 構図に込められた祈りと願い」
『ブッダ』 における 「捨身」 とその作品内における意味/ 京都精華大学