遠野の姥捨て山デンデラ野。『遠野物語』から読みとくやさしい姥捨て伝説

遠野デンデラ野あがりの家

姥捨て山、と聞くと、飢饉を知らない私たちは、「なんてひどい習わしなんだろう」と思いますよね。

「棄老(きろう)※1」は、日本各地で見られる慣習ですが、岩手県遠野市に伝わる姥捨て伝説は、他とは少し違っているようです。
※1 昔、口減らしのために、老人を山中などに捨てたという習俗

今回は、『遠野物語』でも語られている、遠野の姥捨て山「デンデラ野」についてご紹介します。

また、ちょっと怖い地名と一緒に残っている、日本各地の姥捨て伝説や、捨てられた老人たちの「その後」を描いた映画なども、あわせてご紹介します!

遠野に伝わるデンデンラ野とは?

デンデラ野とは、岩手県遠野市にある姥捨て山のこと。

遠野の姥捨て伝説は、ほかの地域のものとは少し違うと言われていますが、どういうところが違うのでしょうか?

まずは、『遠野物語』に記されている、デンデラ野の逸話を見てみましょう。

『遠野物語』の中のデンデラ野

遠野の姥捨て伝説は、『遠野物語』の第111章「ダンノハナと蓮台野※2」で、知ることができます。
※2 ダンノハナは共同墓地。以前は処刑場があったとも言われている。蓮台野(れんだいの)はデンデラ野のこと

そのあらすじを、簡単にご紹介します。

【第111章 ダンノハナと蓮台野】
山口、飯豊(いいで)、附馬牛(つきもうし)の字荒川など、7つの集落には、同じようにダンノハナと呼ばれる地名があり、それと向かい合って、必ず蓮台野という地名があります。

昔は、60歳を超えるとみんな、この蓮台野に送られる習わしがありました。

送られた人々は、すぐに亡くなることはなく、昼間は里へおりて農作業などをして暮らしをたてていました。

そのため、今でも山口、土淵のあたりでは、朝、田畑に出ることをハカダチ※3、夕方、野良仕事から帰ることをハカアガリと言うそうです。
※3 デンデラ野の老人たちが農作業の手伝いに来ることを「墓」であらわしたという説や、1人の労働の量を「ハカ」とあらわす説などがある

なんと、遠野の老人たちは、デンデラ野へ送られた後も、昼間は里へおりて、農作業などを手伝うことができたんですね。

と、いうことは、デンデラ野では、送られた人々が生活できる環境があったということでしょうか。

次は、当時のデンデラ野での生活のようすがわかる、デンデラ野の跡地をのぞいてみましょう!

山口集落に残るデンデラ野の跡地

山口集落のデンデラ野は、町の生活道路から坂道を少し上がった場所にあります。

坂道をはさんで、向かって左が田んぼ、右がデンデラ野。

遠野デンデラ野姥捨て

デンデラ野からは、田んぼのようすがよく見えます。

遠野デンデラ野姥捨て

『遠野物語』には、デンデンラ野に送られた人々は、昼間は里へおりて農作業を手伝った、とありましたね。

農作業のあとは、少しの食べ物をもらって、デンデラ野へ帰ってきたそうです。

こちらが、現在の山口集落のデンデラ野。遠くの山も、近くの町もすっきりと見わたせる、よい場所です。

遠野デンデラ野姥捨て

草も刈られて、きれいに保存されていますね。

遠野デンデラ野姥捨て

住居もあったようです。こちらはレプリカでしょうか。

遠野デンデラ野姥捨て

中は、火が使えるようになっているので、おそらく、簡単な調理はおこなわれていたのではないでしょうか。

遠野デンデラ野姥捨て

このような住居を、デンデラ野へ送られた人たちだけで造ったと考えると、驚きです。

デンデラ野には、まだまだ働ける人が、たくさんいたのかもしれません。

デンデラ野は思いやりの習わし

こうしてみると、デンデラ野に送られた人たちだけで、この先もなんとか暮らしていけるのではないかと思ってしまいそうですね。

しかし、家族から離され、衣食住が十分ではない場所で、高齢者ばかりで暮らす、ということは、「なにか」があったら、すぐにすべてが終わってしまう、ということです。

食べ物や水が手に入らなくなったり、清潔が保てず病気がはやったり、台風や大雨にあったり、獣に狙われたり。

送られた人々は、そういうこともすべて分かったうえで、家族を守るためにデンデンラ野へ向かい、最期の日々を過ごしたのではないでしょうか。

「食料を無駄にはできない」、でも「60歳でただちに死ぬ必要はない」。

デンデラ野へ老人を送る慣習は、飢饉などの現状と、老人への敬意、どちらも踏まえた、遠野らしい「ありのまま」の最善策なのだと感じました。

さて、遠野のやさしい姥捨て伝説に対して、他府県の姥捨て伝説は、ちょっと怖い地名とともに残されていることが多くあります。

次は、日本各地に残る、姥捨て伝説をご紹介します。

日本全国に残る姥捨て伝説

日本の姥捨て伝説は、全国各地に残っています。

しかし、なぜか民俗学的には「姥捨てはなかった」と、言われているんですよね。

ここでは、日本の姥捨て伝説と、民俗学における姥捨ての解釈についても、見ていきましょう!

日本の姥捨て山の名称

日本には、かなりロコツな姥捨て山の地名が残っています。

例えば、ウバステ山、オバステ山以外に、

「オヤナゲ(秋田県男鹿市)」、「姥捨所(福島県双葉郡)」、「人骨山(千葉県安房郡)、「爺転ばし・婆転ばし(山梨県西八代郡)、「人落とし・人落とし穴(岐阜県吉城郡)」、「死人谷(岡山県総社市)」、「60落し(岡山県真庭郡ほか)」、「60くずし(京都府竹野郡)」、「捨て磯(高知県香美郡)」

など。

……捨てられた老人、生きてるとは思えませんよね。

姥捨ての具体例をあげると、兵庫県篠山市に残る「ガンコロガシ」は、70歳になった老人を棺桶に入れて山から谷へ投げ落としていたそうです。

地元の人々も、内容に多少のバラツキはあるものの、多くの人が、幼いころにこの話を聞かされた、と答えていました※4
※4 「姥捨て山の”真相”に迫る(上) 棺ごと尾根から谷底へ 集落に伝わる「ガンコガシ」の伝説/丹波新聞

ここまでリアルな地名や逸話が残っているにもかかわらず、なぜ、民俗学者たちは「姥捨てはなかった」という立場をくずさないのでしょうか。

その理由について、次の章でご説明します。

姥捨て山はあった?なかった?

民俗学的に、「姥捨てはなかった」とされるのには、以下のような理由があると言われています。

1.風葬や共同墓地などから見つかった多数の人骨を姥捨てと混同している
2.老人を大切にする教訓を伝えるため一度捨てて、実際は連れ帰っている

実際に残っている姥捨ての伝説や地名のインパクトに比べると、それを否定する理由としては、ちょっと弱い気がしますね。

飢饉などの食料難で、赤ちゃんや子どもを間引いていたことを考えると、姥捨ての話があってもおかしくありませんが、なぜか、民俗学的には「姥捨てはなかった」という立場が強いのだそうです。

でも、確かに、私たちにとっても「日本では姥捨てなんてなかった。お年寄りは最期まで大切にされた」と思えるほうが、ココロ安らかですよね。

例え、姥捨ての事実があったとしても、遠野のデンデラ野のように、家族と離れたあとにも、残りの人生を送れる場所があってほしいと、今さらながら願ってしまいます。

同じように、捨てられた老人の「その後」に思いを馳せる人が多いのか、現在、山に捨てられた後の老人の生き方を描いた映画や小説がいくつか発表されています。

次は、それらの中から、2つの作品をご紹介します。

デンデラ野を舞台とした作品

◆映画『デンデラ』

《あらすじ》
70歳となり、白装束で山に捨てられた女性たちの「その後」の物語。生延びた彼女たちは山奥で共同体を作り、自分たちを捨てた村に復讐するため、日々訓練をつむ。50人目となる斉藤カユ(浅岡ルリ子)が捨てられ、共同体に迎えられたことをきっかけに村へ向かうが、あらゆる試練が彼女たちにふりかかる。

《キャスト》
浅丘ルリ子 倍賞美津子 山本陽子 草笛光子、他

《スタッフ》
原作:佐藤友哉「デンデラ」(新潮社刊)
監督・脚本:天願大介

《感想》
遠野のデンデラ野のイメージとはかけ離れていますが、年老いた女性たちだけで雪深い山奥で暮らすということは、こういうことなのか、と実感できます。ハッピーエンドではないので、遠野のデンデラ野のやさしいイメージを大切にしたい人は要注意です!

◆小説『でんでら国 上・下』

 《あらすじ》
姥捨ての慣習がある大平村では、60歳になると、男女問わず御山参り※5の旅にでた。そんな大平村ではどんな飢饉の年も必ずきちんと年貢米を納めていた。代官はもしや「隠田※6」を開墾しているのではと疑いはじめる。真実(でんでら国の存在)を知られまいとする農民と、暴こうとする代官の知恵比べの物語。
※5 姥捨て山に入ること。この作品では背負われることなく自分の足で山へ向かった
※6 おんでん。年貢の徴収を逃れるために密かに耕作した水田。見つかると死罪

《著者》
平谷 美樹

《感想》
映画『デンデラ』とはうって変わって、痛快な幕末老人エンターテイメント。1人の男性が60歳になり、村の役割をとかれ、姥捨て山へ入るシーンからはじまりますが、これがまたうれしそうでちょっと笑えます。幼なじみと同じ日に入山する、というところも安心の材料でしょうか。現代の高齢化について考えるきっかけにもなると思います。おすすめです!

まとめ

いかがでしたか?

今回は、遠野に伝わる姥捨ての地「デンデラ野」をご紹介しました。

悲しいイメージのある姥捨て伝説ですが、遠野のデンデラ野では、送る側、送られる側の両方に「家族が生きるため」という共通の思いが感じられました。

送られた人たちも、すぐに命をとられるようなこともなく、ゆっくりと最期の日々を送ることができたのではないでしょうか。

自分はどんな最期を迎えるだろう?

どんな最期が幸せだろう?

そんなことを考えさせられる、遠野デンデラ野の姥捨て伝説でした。

 

【データ】
デンデラ野(山口)
《住所》
岩手県遠野市土淵町山口
《アクセス》
公共交通機関:JR釜石線遠野駅から岩手県交通土淵線恩徳・西内方面行きバスで34分、山口下車、徒歩15分
車:釜石道遠野ICから国道283・340号経由11km20分
《営業時間》
見学自由

【出典】
現代社会の老人問題と棄老伝説

「棄老研究」の系譜(1)PDF

姥捨て山の”真相”に迫る(上) 棺ごと尾根から谷底へ 集落に伝わる「ガンコガシ」の伝説

◆『口語訳 遠野物語』(柳田圀男著・佐藤誠輔訳 河出書房新社 2014年)

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◆『視えるんです。ミミカの遠野物語』(伊藤三巳華著 株式会社KADOKAWA 2014年)

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◆『でんでら国 上・下』(平谷美樹著 小学館文庫 2017年)

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◆DVD『デンデラ』(原作:佐藤友哉「デンデラ」《新潮社刊》 監督・脚本:天願大介)

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