2020年9月 書評テーマ【お腹がすく本】

ここは架空老舗書店の「晴天書房」。

看板娘のあんずと本好きライターが、あなたの本選びをお手伝いします。

今回のテーマは、食欲の秋にちなんで「お腹がすく本」!
みなさんをお腹ペコペコにする、選りすぐりの「飯テロ本」を揃えました…フフフ。

 

丁寧に出汁をとって、手間ひまかけて作る
肉じゃが、食べてみたいよね。

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「食べる女」は、AMAZON primeで映画を見たのがきっかけ。小泉今日子や鈴木京香、沢尻エリカと女優陣が好きでつい見てしまい、美味しそうな料理の映像と女性たちの生き方に共感したので、本まで買って読んでしまった。本の方は、個性豊かな女性たちを主人公に、22本の短編で構成されていて、鍋ものや、煮込み、ムニエル、薄造り、天ぷら、糠漬けなどが食卓に並べられ、いい塩梅に味付けされている。「リベンジ」という章では、結婚するときには料理なんかできなくていい、と言っていた夫が家で旨いものが食べられないと、愛人を作って出て行ってしまう。傷心の妻は小料理屋の女将に拾われ、調理場を手伝ううちに、美味しい!とは何なのかを初めて知る。ざっくり切った牛のバラ肉で作る肉じゃがは、これも大きめに切った玉ネギとジャガ芋と人参を炒めてヒタヒタの出汁で煮る。バラ肉も炒めて、その肉汁が残ったフライパンでしらたきも炒める。そうするとこってりとコクがあるのに、しつこくない肉じゃがができ上がる。と書かれていたから、その通りに作ってみた。昆布とカツオの澄んだ出汁に、肉の脂が溶け込んで旨い!!しっかり胃袋を掴まれた一冊でした。

 

 

 

読めばきっと食べたくなる!
「食」からひも解くマンガ論

<ザフッザフッ(卵かけごはんをかき込む音)『極道めし』>、<じがじがじがじがじが(野草を揚げる音)『リトル・フォレスト』)>。想像しただけで生唾が出てくるような擬音語には、マンガ家たちの「食」への情熱に満ちている!

本書は「食」をキーワードに、多彩な作品を解説したマンガガイド。名(迷?)物グルメ、主人公の大好物、シズル感の表現など、作品の切り口は様々だけれど、単に食べ物を紹介するだけではなく、食事シーンの描き方から作家/作品論にまで発展しているところに、著者のマンガ愛と力量が感じられる。(「食事を句読点とする浦沢直樹、句読点を打たない大友克洋」というタイトル・内容の、なんと秀逸で的確なこと!)

本書には登場しないけれど、個人的なトラウマ料理は、『きんぎょ注意報!』の焼きそばパン(身近でジャンキーなところがいい)と、『究極超人あ~る』のおかゆライス(衝撃!(笑))。本書を読むと、ほんのちょこっとはさまれた食事描写からでも、その作品のリアリティとセンスが感じられるものだなぁと改めて思い知らされる。

食欲の秋、読むもよし、作るもよし、訪ねて食べてみるのもよし。楽しい食&作品探訪へと誘ってくれる、まさに垂涎の一冊だ。

 

 

シズル感たっぷりの
料理童話に思わずグーッ

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子ども向けの本っておいしそうな描写が多くないですか?私は「お腹のすく本」というと児童書をいろいろ思い出します。中でも印象深いのがこの「こまったさんのスパゲティ」。花屋の「こまったさん」はある休みの日、ミートソース・スパゲティを作ろうと思い立ちます。スパゲッティを茹でようとするとなぜかお湯があふれ出し、流されて着いた先はアフリカの草原。動物たちのレストランに迷い込んで、スパゲティの新メニューを教えてもらいます。
パスタなんて呼び方はなく、スパゲティといえばミートソースかナポリタンだった子ども時代、アサリを使ったスパゲティ・コン・ボンゴレや、まぐろの身をトマトソースで煮込んだスパゲティ・コン・トンノという未知のメニューがとても魅力的で。作っているシーンがまたおいしそうで、バターやにんにくの香りが本の外まで漂ってきそうな気がしたものです。コツの部分にはマークもあって、実は料理本の役割も果たしています。ただ分量までは書いてないので、この本だけでは作れないのですが…。親となった今では「これで息子が料理に興味を持ってくれたらなあ」なんて下心も持ちながら、読み聞かせしてあげています(笑)。

 

 

散歩しながら、道草のシアワセ!
~昭和が香るうまいもの巡り~

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私が仕事で出町柳近くの大学を担当していた頃、打ち合わせの後はのんびり御所を散策して、寺町通りを京都市役所の方へぶらぶら歩くのが常でした。イケショーの愛称で呼ばれた池波正太郎先生も、「鬼平犯科帳」などの時代小説の着想のために月に1度は京都を訪れたそうで、寺町界隈を好んで散歩している。「散歩のとき何か食べたくなって」の中にも、バーの名店「京都サンボア」でペルノーの水割りを飲んで、すき焼き店「三嶋亭」で明治開花の匂いに浸り、洋菓子の「村上開進堂」では紀州蜜柑を使った好事福慮がお気に入りと書いている。江戸っ子だった先生は、渋谷や目黒、神田、浅草、銀座界隈も散策していて、その先々で出合う美食譚はもちろん、それを調理し、食してきた人々の生き方や日常を深く捉えていてじつに興味深い。昭和に書かれたものだけれど、銀座の資生堂パーラーなどは、今も銀座で「持続の美徳」というものを醸し出しているし、浅草の並木藪蕎麦では蕎麦に焼海苔でゆっくり熱燗がたまらない。そんな今もなお愛されている名店の温故知新がぎっしり。昭和、平成、令和と受け継がれてきた老舗の味を堪能したくなります。