2022年2月 書評テーマ【胃袋をつかまれる本】

こは、架空老舗書店の晴天書房。私はお店番のあんずです。


一般的に、フランス料理・中国料理・トルコ料理の3つを指して「世界三大料理」とされているみたいですね。

いずれも、大昔にヨーロッパの料理研究家たちによって定義されたもので、理由は「宮廷で出されていた歴史ある料理」というのが有力説みたいですよ。

今回は、胃袋をつかまれた!小説を3作品ご紹介しましょう。

お店の常連さんに、おすすめの本を聞きました。

晴天書房の常連たち

胃袋をつかまれるのはもうしんどい マロン
年とともにガッツリした料理が辛くなってきた。毎日この本に出てくるようなやさしい料理が食べたい。


和食なら生麩が好き ひかりん
角煮や肉じゃがも好きだけど、冬に食べたくなるのはやっぱり生麩田楽。


呑み助に憧れる ぐっち
青ムロくさやには島焼酎、がん漬けにはテキーラ...。主人公たちのように珍味にあう酒を選べる大人になりたい。

 

ピュアな料理と人、
そしてネコに癒される

【あらすじ】 亡くなった母の食堂を自分らしく改装し、引き継ぐことになったアキコ。メニューは素材にこだわり手間ひまかけたサンドイッチとスープ。大変なこともあるけど、お店の相棒・しまちゃんと愛猫たろが癒してくれる...そんな毎日を大切に愛おしむアキコの物語。

プレゼンテーター:
胃袋をつかまれるのはもうしんどい マロン
主人公のアキコは私生児という複雑な環境で育ち、母との関係もギクシャクして決して順風満帆な人生ではありません。母の食堂を改装オープンした後も常連だったお客さんに嫌味を言われたり、新しいお客さんにひと癖ある人がいたり。

ところが気苦労が絶えない中にも、物語にはなぜかほんわかムードが漂います。それはネコのたろとアルバイトのしまちゃんのおかげ。まるまるした体で惜しみない愛情を捧げるたろを抱っこすると、アキコの疲れも吹き飛びます。体育会系で裏表がないしまちゃんは、働きもので素直。そして食堂で出されるやさしい味の料理たち。

全粒粉や天然酵母のパン、低農薬や無農薬の野菜を使ったサラダやスープ、新鮮なフルーツ。丁寧に作られた料理はきっと体にしみこむようなおいしさです。せちがらい世の中と対極にあるような、たろとしまちゃんとパンとスープ。その純粋さに読者まで癒されていきます。

私も癒しの空間で健康的な食事をいただきたいです!

黄泉でも現し世でもない?
異空間で味わうおもてなし

【あらすじ】 ある日の夜、一人ぼっちの浪人生・夜彦は山奥に迷い込んでしまう。灯りに導かれ辿りついた先は、黄泉と現世の狭間で、思い出の料理をふるまう料亭「晩年亭」だった。夜彦はそこで、舌を読んで思い出の料理を再現する兄・銀二と妹・美月の手伝いをすることになるが・・・。

プレゼンテーター:
和食なら生麩が好き ひかりん
現世と黄泉の狭間に誘われた人間・夜彦。そこで「晩年亭」を営む二人と出会い、自分の父親が凄腕の祓い屋だったこと、かつて晩年亭の用心棒をしていたことなどを聞かされる。そして現世へ戻る準備をする二ヵ月の間、晩年亭の用心棒として働くことになるというストーリー。

全四話。主人公の夜彦、悪霊、死者、あやかし、人間の少年など、それぞれが抱える問題や、置かれている状況に関連づけられた料理が登場する。晩年亭は和食処というだけあって、出てくる料理は蕎麦や金目鯛の煮つけ、筑前煮やおからなどの和食で、それらは大切な人と食べたもの・大切な人に作ってもらったもの。その思い出のご飯を食べることによって、自身の抱える問題に素直に向き合えるようになります。

作る過程こそ書かれていないけど、できあがった料理の描写が丁寧なので想像しやすくて、ついついその日の晩御飯に蕎麦を食べたほど・・・。思い出のご飯を想像しながら読みたい一冊です。

みなさんが、最後の晩餐に食べたいものは何ですか?

 

3ページで味わう人生の妙
旨み、苦みにいのち輝く

【あらすじ】 未婚の母を決意したタマヨが食べたいという「たたみいわし」。幼なじみの墓参の帰りに居酒屋で味わう「かつおへそ」。ほかにも、「青ムロくさや」「からすみ」など68種類。江戸の達人が現代人に贈る、珍味と酒を入口にした女と男の物語。全編自筆イラスト付き。

プレゼンテーター:
呑み助に憧れる ぐっち

「おだやかならねばこそ珍味」とあるように、ただ旨いだけではなく、苦みやえぐみを併せもつのが酒肴というもの。本書に出てくるのもまた、決して甘くはない、けれど尊い人生のワンシーンだ。

食べ物の話なのに、読んでいて泣けてくるのが不思議なところ。味覚というパーソナルな部分を通して、それぞれの思い出にふれるからか。それとも、著者の珍味と酒、何より人間への愛あるまなざしを、そこかしこに感じるからか。

各話に添えられた珍味のイラストと作中の表現力たるや。食べたことのないものも、その複雑な妙味が伝わってくるようだ。物語を生み出すキーとなる珍味の数々と、酔ってこぼれる男女の本音。どの話も口に含んで慈しみ、噛みしめたくなる滋味にあふれている。

胃袋どころか胸をぎゅっとつかまれる、ほろ苦く愛おしい人間模様たち。各話たった3ページではあるけれど、一気に読まずちびりちびりと味わいたい、まさに酒肴のような掌編集だ。

3ページで胃袋も心も掴まれる!?おもしろそうですね。

ご紹介した本まとめ

いかがでしたか?思わず食べたくなる料理ばかりでしたね!