「今まで話して人が、突然気を失った!」「目の前を歩いていた人が急に倒れた!!」。
みなさんは、そんな体験をしたことがありますか?
それが、家族であれ、知らない人であれ、私たちはまず、どうすればいいのでしょう。
110番?いや、119番!あれ、スマホってどうやって電話かけるんだっけ……!?
ちょっとパニックになってしまいそうですよね。
では逆に、自分がもし急に倒れてしまったら、近くにいる人にどうして欲しいですか?
その人もきっと、パニックになりますよね。
あたふたしながらでも、どういう行動をとってくれたら、あなたは「ありがとう!」と思えるでしょうか。
今回は、一般市民による「救命処置」の現状や、日本赤十字社がおこなう「赤十字救急法基礎講習」についてご紹介します。
いつか来るかもしれない「まさか!」の瞬間のために、今からできることを、少しずつはじめませんか?
目次
市民が活躍!救命現場での応急処置
普段、人の生死にかかわることの少ない一般市民にとって、目の前で人が倒れる、というのは、かなり不安な体験ですよね。
ところが、勇敢にも、路上などで倒れた人に応急処置をおこなう一般市民が、年々増えているんです!
実際、1年間でどれくらい、一般市民によって応急処置がおこなわれているのでしょうか。
まずは、救急搬送におけるデータからご紹介します。
2018年の救急搬送
消防庁の発表では、2018年に救急車で搬送された人は約596万人でした。
約596万人って、わかりやすくいうと、どれくらいの人数なのでしょう?
例えば、東京ドームの収容人数が5.5万人なので、東京ドーム満員のイベントを108回おこなった分くらいの人数、ということでしょうか。……大変な人数ですよね。
では、どんな理由で搬送されているのかを見てみましょう。
出典:「令和元年版 消防白書」
搬送された約596万人のうち、約389万人(約65%)が、急な体調の変化で搬送されているんですね。
実際、一般市民によって応急処置がおこなわれた件数は、どれくらいあったのでしょうか。
近年の救急搬送と市民による応急処置
近年の搬送者のうち、心肺停止状態で一般市民に発見され、一般市民によって応急手当がおこなわれた傷病者数は、次のとおりです。
出典:「令和元年版 消防白書」
どの年も、半数以上の傷病者が、一般市民から応急手当を受けていることがわかりますね。
また、搬送から1か月後の生存率は、応急処置がおこなわれなかった場合が9.0%であるのに対し、応急処置がおこなわれた場合は17.5%と、約2倍になることが報告されています※1。
※1 出典:「令和元年版 消防白書」
家族や大切な人が目の前で心肺停止した場合、できるだけ早い段階で応急処置をおこなうことが、その後の生存率や復帰率に大きくかかわってくる、ということを覚えておきましょう。
e-ラーニングで受講できる救命講習
現在、救命講習はいくつかの団体で開催され、消防局がおこなう「普通救命講習Ⅰ」だけでも、毎年12万人以上※2が受講しています。
※2 出典:「令和元年版 救急救助の現況 Ⅰ救急編」
日本赤十字社など、ほかの団体がおこなう救命講習を合わせると、かなり多くの人が救命講習を受講していると考えられますね。
また、中学校や高校などの教育現場でも救命講習が取り入れられ、中学生が、心肺停止した父親の命を救ったというニュースもありました。
◆タウンニュース
『犬蔵中土橋竜治君 中学生、父親の命救う』
やはり、家族や大切な人が目の前で倒れた場合、すばやく対応するためにも、救命講習を受けておくと安心ですね。
「救命講習に興味はあるけど、いきなり申し込むのは不安……」という方のために、国や各都道府県では、ネットで応急手当を学べるe-ラーニングシステムを進めています。
【救命講習のe-ラーニング】
動画を見るだけでも勉強になりますが、動画を見て、「やっぱりきちんと受講しよう!」となった場合、e-ラーニングで学んだ分(講義1時間分など)は、当日のカリキュラムから免除されることがあります。
【e-ラーニングで講義が免除される例】
◆大阪市
「ボジョレーに教わる救命ノート」サイト内の救命テスト中級・または上級に合格すれば、普通救命講習Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの最初の1時間が免除されます!
詳しくはこちら→大阪市
◆京都市
消防庁の「一般市民向け 応急手当WEB講習」を事前に受講しておけば、当日の講義が免除されます!
詳しくはこちら→京都市消防局
今は救命講習を受ける予定がない方も、時間があるときに気軽にのぞいてみましょう!
赤十字救急法基礎講習とは
初級の救命講習を実施している団体はいくつかありますが、ここでは、日本赤十字社が開催している「赤十字救急法基礎講習」についてご紹介します。
赤十字救急法基礎講習の概要
「病気やけがや災害から自分自身を守り、けが人や急病人を正しく救助し、医師または救助隊などに引き継ぐまでの一次救命処置と応急手当」を、赤十字救急法※3といいます。
※3 出典:「『赤十字救急法基礎講習』(株式会社 日赤サービス)」
赤十字救急法には「基礎講習」と「救急員養成講習」※4がありますが、ここでは、基礎講習についてご紹介します。
※4 出典:「日本赤十字社 救急法」
《基礎講習》
受講資格:満15歳以上
講習時間:4時間程度
受 講 料:1500円(教材費、保険料等の実費)
受講内容:手当の基本、人工呼吸や胸骨圧迫の方法、AED(自動体外式除細動器)を用いた除細動など
講習の会場は、各都道府県の赤十字社支部や赤十字病院などが多くなっています。
開催日程によって講習会場も変わるので、必ず、申し込んだ講習の会場を確認するようにしましょう。
消防署の普通救命講習などとの違い
初級の救命講習は、「JRC蘇生ガイドライン」をもとにおこなわれている場合が多く、どの団体でも同じ内容になっています。
私は、「赤十字救急法基礎講習」のほかに、「公益財団法人日本体育施設協会 スポーツ救急手当プロバイダーコース」を受講しましたが、どちらもほぼ同じ内容でした。
消防局の「普通救命講習Ⅰ」も、講習の内容は同じですが、料金が無料、対象年齢は中学生以上、消防署がある地域に住んでいる人が対象、など、受講の条件が少し違います。
どこで受講するか迷ったときは、講習日程や講習会場、費用などで講習先を決めるのもいいかもしれませんね。
赤十字救急法基礎講習に合格したら
赤十字救急法基礎講習の合格率は、正式に発表されていないようです。
後ほど、くわしくお伝えしますが、私が受講した日は、ほぼ全員が合格していたようでした。
赤十字救急法基礎講習に合格したら、「赤十字ベーシックライフサポーター」の認定証が交付されます。
認定証を取得しても、ただちに救命の仕事ができる、というわけではありませんが、警備員や介護士、スポーツクラブなど、救命処置が必要になる可能性がある職種に応募する際には、少し有利になるかもしれませんね。
また、「赤十字水上安全法救助員Ⅰ」など、救命の上位の資格を取得する際、赤十字救急法基礎講習の合格が条件になっている場合があります。
今後、それらの資格にチャレンジする方は、有効期限(5年)を切らさないように管理しましょう。
実際に赤十字救急法基礎講習を受講しました!
2019年9月、大阪でおこなわれた赤十字救急法基礎講習を受講しました。
その時の講習の内容や試験の様子、受講した感想などをお伝えします!
赤十字救急法基礎講習の流れ
講習は簡単なオリエンテーリングからはじまり、午前中は学科、実技、午後から実技試験、学科試験、という流れでおこなわれました。
まずは学科で、1時間ほど応急手当などについて学んだあと、机をかたづけて実習の態勢へ。
実習は、
1.会場の真ん中に集まって指導員の実演を見る
2.自分の場所へ戻って 2人1組で実技
の繰り返し。
倒れている人の観察の仕方、回復体位、気道異物除去、心肺蘇生、AEDでの除細動、などを学びました。
実技の練習では、必ず指導員、または赤十字社のボランティアスタッフがついてくれるので、疑問点もすぐに確認することができました。
ひととおり実技を教わったあとは、昼食まで、実技試験に向けてひたすら練習!
人形の胸をべこべこと押す胸骨圧迫は、思った以上に体力を使います。
汗をかくので、実習の服装は、長袖よりも半袖がおすすめですよ。
赤十字救急法基礎講習の試験
昼食のあとは、実技試験からスタートです。
e-ラーニングなどの動画を見た方はご存知かと思いますが、「一次救命処置」の試験がおこなわれます。
「人が倒れています!」
「周囲の観察」
「危険なし!」
「全身の観察」
「大量出血なし!」
「反応の確認」
「もしもし、大丈夫ですか?」×3
「誰か来てください!」
「あなたは119番通報をお願いします」
「あなたはAEDを持ってきてください」
……っという、あの一連の実技です。
細かいセリフの間違いなどは、あまり気にしなくていいようです。
要救助者を発見してからの手順や、胸骨圧迫・人工呼吸の仕方、AEDの使い方などがわかっているかどうか、などをチェックしているようでした。
人形の胸をべこべこと押す胸骨圧迫中に、「もう少し真上から」とアドバイスをいただきましたが、すぐにいわれたとおり修正すれば、問題ないようでした。
実技試験のあとは、机を並べ直して、学科試験です。
問題は選択式で10問。かなり基本的なことばかりだったので、ほとんどの人が満点だったのではないでしょうか。
「合格点に達しなかった人はちょっと残ってください」といわれていたので、おそらく、再度説明をして、理解できれば合格になっていたのではないかと思います。
ほかの講習ではそうはいきませんが、この基礎講習は、ほとんどの方が合格するようにできているように感じました。
赤十字救急法基礎講習の感想
2度目の受講だったので、目の前で人が倒れたら「まずどうしたらよいか」「最低限、何をしたらよいか」ということが、ある程度整理できたように思います。
漠然とあった「どうしたらいいんだっけ……?」という不安はなくなりました。
人形を使った胸骨圧迫や人工呼吸の練習も、普段なかなかできるものではないので、これも受講してよかったと思うところですね。
また、あらためて受講したことで、「救命」がより身近になり、普段から災害や救命に関する情報を見るようになりました。
倒れている人を発見したときに、どこまでできるのかは不安ですが、少なくとも、先に応急処置をしている人がいれば、必ずお手伝いに駆けつけようと思いました。
バイスタンダーの役割
資格の有無にかかわらず、救命の現場にいあわせた人を「バイスタンダー」といいます。
この章では、バイスタンダーの役割について考えてみようと思います。
まずは、以下のアンケート結果からご覧ください。
バイスタンダーが応急処置をしない理由
東京消防庁が、都民に対して「応急手当を実施しない理由」をアンケート調査したところ、以下のような回答がありました。
◆応急手当をしない理由(2014年)
何をしたらよいかわからないから | 80.6% |
かえって悪化させることが心配だから | 50.0% |
誤った応急手当をしたら責任を問われそうだから | 22.2% |
感染などが心配だから | 2.8% |
三角巾などの道具がないから | 5.6% |
その他 | 8.3% |
……なるほど。もっともな意見ばかりですね。
確かに、今の日本では、応急手当による感染症や家族・遺族からの訴訟などから、完全にバイスタンダーを守るシステムはありません。
今のところ、バイスタンダーが訴えられたという事実はない※5そうですが、やはり心配ですよね。
※5 出典:「【弁護士に聞いてみた】AEDを使ってもし人が亡くなったら罪になりますか?」
東京消防庁では、そんなバイスタンダーの金銭的負担を少しでも軽くするために、2015年9月から保険制度※6を運用しています。
※6 出典:「バイスタンダー保険制度の創設について/東京消防庁」
応急処置をしたことで、万が一、けがをしたり、トラブルに巻き込まれたときは、1人で悩まずに、地域の消防署に相談してみてくださいね。
バイスタンダーの役割は約10分間
「救命の連鎖」をご存知でしょうか?
傷病者の急変を発見してから医師へ引き継ぐまでを、上記の4つの輪に例え、これらの輪を途切れることなくスムーズに連携させることで救命率を上げる、という考え方を「救命の連鎖」といいます。
救命の連鎖の中で、バイスタンダーが担うのは、1~3つ目の輪。傷病者を発見してから、救急車が到着するまでの、約10分間です。
バイスタンダーから傷病者を引き継ぎ、救急車が病院に到着するまでの40分ほどは救急隊の役割、病院へ引き継いだあとは医師や家族の役割となります。
実際、バイスタンダーが傷病者に寄り添っている時間は10分だけではないと思いますが、救命の連鎖の役割分担としてはその部分だけなのだと、割りきっておきましょう。
ココロの負担にならない救命活動を
医療従事者でも救急隊でもない一般市民にとって、他人の命に関わる応急処置は、大変な精神的負担となることがあります。
中には、「あの処置で間違いなかったのかな」「自分のせいで助からなかったらどうしよう……」と、その体験をずっと引きずってしまう人もいます。
しかし、普段から訓練を積んでいる医療従事者や救助隊とは違って、私たちにできることは限られているのが現実です。
応急処置が思うようにできなくても、救急隊に引き継いだあとは、反省しすぎず、考えすぎないようにして、自分のココロをストレスから守りましょう。
まとめ
いかがでしたか?
今回は、市民による応急処置の現状、赤十字救急法基礎講習の紹介、バイスタンダーの役割などについてお伝えしました。
冒頭の話に戻りますが、私が傷病者やその家族なら、たとえ助からなくても、救命に尽力してくれたバイスタンダーに対して、「助けようとしてくれてありがとう!」「最期にひとりぼっちにしないでくれてありがとう!」と感謝でいっぱいになると思います。
事故や急病は、誰もが当事者になる可能性があり、決して他人ごとではありません。
大切な人を突然死から守るため、また、目の前で倒れた人をすばやく救急隊につなぐためにも、一度、救命講習を受けてみませんか?
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