2021年8月 書評テーマ【怪談】

 

こは、架空老舗書店の晴天書房。私はお店番のあんずです。


お盆に「怪談」は、日本の祖霊信仰がルーツのようですね。
肝が冷えて涼しくなるは俗説だそう。

でもその俗説を覆し、思わずゾクッとさせるような、想像力をかき立てる3作品をご紹介しましょう。

 

お店の常連さんに、おすすめの怪談を聞きました。

 

晴天書房の常連たち

信じてなくても怖いもんは怖い マロントラウマになるので恐怖映像やホラー映画は断固拒否!でも「意味が分かると怖い話」はつい読んでしまう。




女だって穢れだもん。 YUMMY昔から、生理や出産で血を流す女は穢れだったのだ。魔女狩りだってそう。畏れる=穢れだったのかも。




怪談ブーム世代 ぐっち
何かが起きている危機感。『ドラゴンヘッド』のようなSFホラーが好きな人には『第四夜』がおすすめ。

 

 

美しく禍々しい山に
魅入られたら、二度と戻れない

【あらすじ】  仕事も家族も失い、山をさまよう男。昔、恋した少年を山で失った女。少年の頃、山でおぞましい光景を見た3人の幼馴染。死者の魂を山へと導く女。そして山の麓で、これらの物語を紡ぐ老女。山を恐れつつも山に引き寄せられた人々が出会う、恐怖と幻想の物語。


プレゼンテーター:
【信じてなくても怖いもんは怖い】マロン

あさのあつこといえば「バッテリー」などさわやかな青春小説の作者、と思っている人も多いのでは?そのイメージでこの本を読むと裏切られます。

物語の舞台はいずれも、山。ハイキングで訪れるような明るい山ではなく、入ったら二度と戻って来られない、樹海のような恐ろしい山。死に魅入られた者を導き、食らい、その養分によって猛々しいほどの緑を茂らせる。そんな存在として描かれます。

4つの物語の主人公たちはいずれも暗い過去を背負い、山に呼ばれ、破滅へといざなわれます。悪夢のようにぬらりとした手触りで気味が悪い話ばかりですが、怖いというよりも苦しさ、切なさがじわじわと胸を苛み、何ともやりきれない気持ちにさせる物語。

人間の悲しみや自然への畏怖を描いた本作は、現代のホラーよりも昔の怪談に近い感じ。ギャーッと悲鳴が上がるような怖さより、しみじみした情緒を味わいたい人におすすめです。

あさのさんは岡山県美作の生まれ。山への畏怖は体験からでしょうか。

 

 

聞いても、伝えても祟る
その穢れに背筋がひやり

【あらすじ】  転居してきたばかりの部屋で、どこからか畳を擦る音が聞こえる、いるはずのない赤ん坊の泣き声がする、何かが床下を這い廻る気配がする。住人が居つかずに次々と変わるのはこれが原因?この家の住人と作家がこうした怪奇現象を調べるうち、ある「土地」を巡る因縁が浮かび上がり、その穢れが感染している!?


プレゼンテーター:
【女だって穢れだもん。】YUMMY

『十二国記』の小野不由美さんの作品。「穢」は、初めはなんて読むのかわからなかった。「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」でも漢字が物語の魅力になっているから、漢字の持つ歴史の重みが感性に語りかけるようだ。

住人と作家との調査で、マンションが建つ前の住人、その前の代と追っていくうちに嬰児殺しや首吊りの事件があり、そのルーツとなる福岡の炭鉱王として知られた名家にたどり着く。恨みを持った壮絶な死が「穢れ」となって感染しているというのである。「聞いても、伝えても祟る」と。

私の家も建替えのとき、南朝北朝の戦で燃えた廃寺の本堂に位置するので、と教育委員会の試掘が入った。どの土地も調べれば曰く因縁はあるもの、だからこそ地鎮祭の風習があるのだろう。そういえば亡き母が、顔を洗うと落ち武者が見えると言っていたのを、読後に久しぶりに思い出してぞぞっとした。この本は誰かにあげようっと。
2013年山本周五郎賞に選出。

穢れが感染していくなんて、怖すぎる。つるかめ、つるかめ。

 

本能が「ヤバイ!」と訴える
伝説的なサイコホラー

【あらすじ】 木原浩勝×中山市朗の怪異蒐集家コンビによる実話怪談シリーズの第四作目。3人の大学生が卒業制作の撮影で訪れた山道の先で見たものとは―?現代の怪異現象譚の中でも群を抜いて不気味な「山の牧場にまつわる十の話」を含む、シリーズ屈指の恐怖作。
プレゼンテーター:
【怪談ブーム世代】ぐっち

 

学生の頃、夢中で読んだ怪談シリーズ。全十作のうち、ダントツで気味悪く、未だに記憶に残っているのがこの第四夜。

はっきりいって「山の牧場~」には幽霊も妖怪も出てこない。学生が山の上で見たのは、使われた形跡がない牛舎、仰向けになったトラクターなど、どれも単体では説明がつくものばかり。けれど、その他の不可解なディテールが重なったとき、「ここではありえないことが起きている!」と直感するに足る不気味さがあり、想像を超えた狂気に圧倒される。

私たちの世界の倫理観や物理的法則を無視した大きな力を前にしたときの、生理的な嫌悪感と慄き。「山の牧場~」の前章が、UFOの写真を撮った者が何者かによって行方不明にさせられるというエピソードなのも、恐怖をさらに増幅させる。

疑惑、隠蔽、不条理-。白日のもとで、ぽっかりと口を開けた異界。点と点とが結びついて深まっていく異次元への闇は、きっとあなたのトラウマになるはず。

あんず
異界の闇が、日常に迫りくる・・・実話と思うとキャーッ!

紹介した本まとめ

あんず
それぞれに怖い3作、いかがでした?

日本の作家の作品が集まりましたが、海外作品とは怖さの肌合いが違うようですね。またいつか海外版の怪談の書評もやってみたいです。