2022年1月 書評テーマ【芥川賞】

こは、架空老舗書店の晴天書房。私はお店番のあんずです。


つい先日、芥川賞が発表されましたね。

近年では、お笑い芸人の又吉さんが書いた「火花」が受賞したことで注目を浴びました。
有名人が受賞したことで、「純文学」が少し身近なものに感じたのではないでしょうか?

今回は、物語に深い余韻を残す、芥川賞ワールドな作品をご紹介しましょう。

お店の常連さんにおすすめの本を聞きました。

晴天書房の常連たち

描かれる人が興味深い YUMMY
芥川賞は純文学、直木賞は大衆文学という大雑把なことしか知らないトンマが語るのもおこがましいけど、読んだら楽しかった。

文学って感想が難しい マロン
派手な展開も驚きの結末もないけど、文章が味わい深く物語に余韻がある。芥川賞の作品ってそんなイメージ。

難しさにひより気味 ぐっち
芥川賞は社会風刺が効いている印象。表現の難解さに敬遠しがちだったけれど、こちらはライトに読めました!

島の歴史を記録する
未名子と馬とクイズ!?

【あらすじ】 沖縄の私設郷土資料館に通い、資料の整理や記録する作業を進める未名子は、世界の果てにいる訳ありの人たちに、リモートで日本語のクイズを出題する仕事をしている。ある台風の夜、幻の宮古馬が庭に迷い込み、資料館が取り壊されることに・・・。

プレゼンテーター:
描かれる人が興味深い YUMMY

父が残した家で一人暮らす未名子は、小学生から不登校となり、民族学者が作った郷土資料館に通いながら成長する。沖縄の膨大な資料に触れながら、スマホで記録することを思い立つ。資料館が壊される前に、自身がクイズを出題する相手にその記録データを送信して保管を依頼する。いつかきっと世界のどこかで役に立つはずと。

そんな時に庭に迷い込んできた宮古馬と始まる奇妙な生活。沖縄の昔、競馬は速さではなく美しさを競うものであった。「この茶色の大きな生き物は、そのときいる場所がどんなふうでも、一匹だけで受け止めているような、ずうっとそういう態度だった」と未名子は思う。

この馬は未名子と周囲の人たちが、個々に違う孤独を受け入れて生きる!象徴ともいえる。淡々と紡がれる毎日を記録しようとする未名子、その孤独の記憶が心に沁みる。

 

「孤独の記憶」切ないフレーズですね・・・

理解しつつもすれ違う
他人との距離の難しさ

【あらすじ】 フランス滞在中、旧友が住む田舎を訪れた私。そこでユダヤ人のルーツを持つ友の思いに触れ、家主の女性と盲目の息子に出会うことで、自身が感じていた「なんとなく」の理解や共感に違和感を覚え始める。静かな文体が人生の真実を照らし出す作品集。

プレゼンテーター:
文学って感想が難しい マロン
フランス文学者であり、何度もフランスに滞在してきたであろう堀江さんが描く物語には、現地の風景や土地柄の繊細な描写がよく登場し、紀行文のような味わいも楽しめます。本作もそんな物語の一つ。

主人公の旧友が住むのは、ノルマンディー地方の小さな都市。モン・サン・ミシェルを遠く望むその街の情景や、向かう途中の列車で出会った青年との会話、行き当たりばったりで入ったレストランの食事など、さらりとしていながら臨場感のある文章が心地よく続きます。それでいて、さりげなく深いテーマが隠れているのも堀江作品の特徴。

ユダヤ人のルーツを持つ友人がふと漏らした話から、理解しあっていると感じていた友人に隔たりを感じ、実は自分が彼にとってやっかいな存在となるのではと感じ始める主人公。わかりあっているようで微妙に食い違う異文化や他人。その「どうしようもなさ」を淡々と静かに描く物語です。

ルーツや文化、価値観など変えられないものへの、もどかしさってありますよね。

コンビニの、人類の、動的平衡。
どちらの歯車も実は同じでは。

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【あらすじ】 古倉恵子、コンビニバイト歴18年。彼氏なしの36歳。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる。ある日、婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて・・・。現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作品。

プレゼンテーター:
難しさにひより気味 ぐっち
死んでいる小鳥を拾って「焼き鳥にすればいい」、男子の喧嘩を止めるのに「スコップで殴れば確実」と、まわりがギョッとするほどの合理性を持ち、それゆえ異端児扱いされてきた恵子。そんな彼女が「人間」になれる場所、それはすべてがマニュアル化され、「店員」という正しいひな形が与えられたコンビニだった。

しかし、せっかく「人間」になれたと思った彼女も、同級生で集まったBQ会場で「恋愛&正社員経験なし」の現状をあざ笑われ、「結婚して子どもを持つのが“普通”なのだ」と諭される。

けれど、両者のちがいは一体何だろう?かたやいつ来ても変わらぬコンビニを構成する一部、かたや変わらぬ営みを続ける人類を構成する一部。大なり小なり、どちらかの共同体を構成する一つの歯車(細胞)にすぎないのではないだろうか。

おせっかいな日本社会に、恵子はどう立ち向かうのか。「普通」の持つ怖さを体験したい人はぜひご一読を。(同級生のセリフには反吐が出るけど)

いろいろな生き方のある現代社会において「普通」とは何なんでしょうか?

ご紹介した本まとめ

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いかがでしたか?たまに純文学に触れてみるのもいいですね!